快進撃はどこまでも続く。クリスマス決戦となる今年の有馬記念(G1、芝2500メートル、12月25日=中山)は、今年の古馬中距離G1を勝った全ての馬が参戦するなど、G1馬7頭が集結する豪華な一戦となった。今年3月に芝へ転向したばかりの5歳馬ヴェラアズール(牡5、渡辺)は前走ジャパンCでG1馬の称号を手にした。芝での6戦は全て上がり3ハロン最速(タイ含む)。強烈な末脚を武器にグランプリでビッグレース連勝に臨む。同馬を所有する(有)キャロットファームの秋田博章社長(74)が脚部不安に悩まされた若駒時代を振り返りながら、同馬の可能性、驚きの連続だったレースぶりを語った。

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-ジャパンC優勝、おめでとうございます。有馬記念のファン投票の第2回中間発表では43位(8044票)だった馬が、レースを挟んだ1週間後の最終結果では一気に5万票以上も票を伸ばして18位(5万9489票)にランクイン。実力が知名度に反映された

秋田社長 ありがとうございます。他のG1馬と比べても、ジャパンCを終えるまではみなさんにそこまで知られている馬ではありませんでしたからね。かつて、エルコンドルパサー(98年ジャパンC優勝)がダートでデビュー3連勝後に芝でも活躍した例などがありますが、5歳3月の時点でダートの2勝馬だった馬が芝に転向してここまで大成するとは…。ファンの方々だけではなく、携わっている私どももびっくりしています。

-秋田社長ほどのホースマンでも異例の馬

秋田社長 そうですね。ダートで頭打ちになりかけていたのもありましたが、もともと芝も走れるすばらしい血統の馬です。クロフネの血が入っているのでダート適性もあったのでしょうし、母系にはアヴェンチュラ、トールポピーなど芝で一流の成績を残した馬が多くいます。距離に自在性があって能力があるというところで、厩舎関係者やノーザンファームしがらきのスタッフが協議して芝を使うと考えたんだろうと思います。私としてはそれもありだな、と。脚元が弱くてデビューが遅い馬だというのもありましたからね。

-デビューは新馬戦最終週の20年3月20日阪神ダート1800メートル(2着)。育成牧場での本格的な調教開始時期は1年ほど遅かった

秋田社長 育成牧場で坂路に入れたのが2歳10月中旬でした。同世代の馬たちと比べても、1年遅れといってもおかしくない時期です。一番馬体重が増えていたときは591キロまで増えていましたし、そのときは本当に緩くて、大きな骨瘤(こつりゅう)もありました。正直、あまりいい印象はなかったです。競走馬になれるのかな、と。そういう状況から調教をして、それだけ太った馬を絞るのも大変です。ここまでもってきた努力、技術は本当にほめてあげたいですよ。牧場から引き継いで厩舎に入っても、馬をつくっていってくれたんですから。

-やはり平たんな道ではなかった

秋田社長 もともと脚元が弱いのは牧場も、厩舎も把握していました。なので、手探りの状態でダートを使っていったというところがあります。

-芝では上がり3ハロン最速(タイ含む)を連発

秋田社長 父エイシンフラッシュの代表的な産駒が少ないですが、あれよあれよと成績を残してくれました。芝転向後も負けても3着だったり、毎回いい走りを見せてくれました。京都大賞典を使う際も「まだ重賞はきついだろうな」と思う中であのパフォーマンスでしたから。そうすると、次はどうするかと考えた先には、G1しかないわけですから。

-あらためてジャパンCのパフォーマンス振り返っていただきたい。これまで後方待機の馬が1角では中団に収まり、直線は馬群の内を瞬時に抜け出した

秋田社長 ジャパンCの勝利は能力がないとできない芸当だと思います。おそらく、ムーア騎手は枠順や流れを考えて、後方一気では無理なんだろうと考えたのではないでしょうか。後ろから外々を回ると、遅めの流れでは東京でも届かないと思いますから。あの末脚と狭いところを抜けてくる気力がすばらしかったですね。あの内を嫌がる馬もいますから。

-芝転向後、あそこまでタイトな競馬はジャパンCが初めて。しかも一線級の相手に勝負根性を見せた

秋田社長 力は推し測れないですよね。あの馬に関しては驚きばかりです。ジャパンCの前後でも馬に対してのイメージが変わりました。多くの人がそう思ったのと同じです。