今年も競馬界の“まつり”はキタサンブラック産駒が主役だ。産駒2世代目となる現3歳馬は皐月賞馬ソールオリエンス、青葉賞馬スキルヴィングがダービー出走馬に名を連ねた。昨年はイクイノックスが3歳馬ながらに年度代表馬へ。種牡馬として青天井の評価を、同馬が繋養(けいよう)されている社台スタリオンステーションの徳武英介場長が語った。【取材・構成=松田直樹】

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現役時代にG1・7勝。道悪でも、高速馬場でも、どんな展開でも、キタサンブラックはハイレベルな先行力を発揮した。18年に種牡馬入りして、早くも5年がたった。毎年2月に開かれる種牡馬展示会では真冬でもあばらが浮くほどの皮膚の薄さを保ち、パレードリンクを周回する。蹄音が響くことはない。静かに、ひたひたと。無駄のそがれた歩き姿には、誰もが息をのむ。

「なかなかない歩様ですよね。4本の脚のツメが同じ方向を向いてきれいに1本橋を渡るように歩く。列を組んで歩くというか。構造的にエネルギーを前に伝える仕組みが出来上がっている。横にぶれたりしないし、道悪だろうが、パンパンの良馬場だろうが、まっすぐ軸がぶれずに走れるというのが、子どもにも見て取れるわけです。余計なエネルギーを伝えていない。天性のものですよね」

初年度130頭で始まった種付け生活。サンデーサイレンス系種牡馬が飽和状態の中、われ先に交配を求められていたわけではなかった。19年110頭、20年92頭、21年102頭。初年度産駒の活躍が知れ渡り、22年178頭と人気が爆発した。種付け料が2倍の1000万円に設定された今年も、種付けシーズン突入時にはすでに満口だった。

「クラシック、G1戦線になると子どもが上位に走っているものだから、これは能力的には本物だろう、遺伝力も含めて高いレベルにあるだろう、とみなさん思いますよね。この馬自身が強かったこと、その能力が子どもに素直に受け継がれやすいことが評価されたのだと思います。とにかく馬のスタイルに狂いがない。非常に穏やかな性格でもあり、オンとオフがはっきりしています。1、2年目で大物を出したので今後、中心的な種牡馬になるのは間違いないでしょう」

評判は右肩上がり。受胎率、勝ち上がり率が高く、現在11歳と先も長い。「2年目で(ダービーを)勝ったら何勝してしまうんでしょうね」。生産界もその行く末を温かく見守っている。