愛する母へ、涙で感謝を届けた-。7年目の西村淳也騎手(25)が24度目の挑戦でG1初制覇を決めた。
9番人気の伏兵ルガル(牡4、杉山晴)でハイペースの3番手につけ、トウシンマカオの追い上げを首差しのいだ。勝ち時計は1分7秒0。管理する杉山晴紀調教師(42)は当レース初出走で初勝利。鞍上と同じくG1初制覇の同馬は今後、香港スプリント(G1、芝1200メートル、12月8日=シャティン)なども選択肢に入る。
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こらえきれなかった。西村淳騎手が人目をはばからず、泣いた。ゴールの瞬間も下を向き、左手で目元を覆った。引き上げる間も、帰った後も止まらない。検量室前で杉山晴師の胸に包まれ、泣いた。「自分は幸せです。騎手をしていてよかったです」。インタビューでレース内容を問われても「なんも覚えてないです」と連呼。無心で夢のひとときを駆け抜けた。
涙もろさは血筋かもしれない。感謝を伝えたい人を問われ「母親です」と即答した。女手一つで育てられ、乗馬を始めたいと言った小学5年の時も「後ろから応援してくれました」。中学1年頃からは「帰りが遅くてご飯を食べる時間もなかったです」と苦労をかけた。レースを生観戦してもらったことは「何があるか分からないので」とこの日を含めて1度もない。「連絡は勝った時のおめでとう、かっこよかったよ、くらい。おそらく今日は泣いているでしょうね」と、照れ笑いでかみしめた。
恩返しを-。臆せず攻めた。ゲート内でばたつき「やべぇなぁ」と思ったが、五分の発馬を決めた。逃げたピューロマジックが作った前半3ハロン32秒0の激流を、やや離れた3番手につけた。「馬のペースだけを守ったらあの位置に。何の不安もなかったです」と信じた。前が止まらない馬場も味方に、残り100メートルで逃げ馬をパス。懸命の左ステッキで残しきった。
涙をぬぐって、次を見据える。高松宮記念ではレース中に骨折の不運。1番人気で10着に敗れたが、悔しさを晴らした。騎手を目指したのは現在浜田厩舎に務める兄勇哉助手の影響。「兄が騎手になれずもっともっと努力しないといけないと思いました。1鞍1鞍全力で勝ちに行きたいですし、1つでも多く勝っていけるジョッキーになりたいです」。立派な姿を母に届けた。でも、まだまだ立派になれる。【深田雄智】
◆ルガル ▽父 ドゥラメンテ▽母 アタブ(ニューアプローチ)▽牡4▽馬主 江馬由将▽調教師 杉山晴紀(栗東)▽生産者 三嶋牧場(北海道浦河町)▽戦績 13戦4勝▽総獲得賞金 2億9486万円▽主な勝ち鞍 24年シルクロードS(G3)▽馬名の由来 王(シュメール語)
◆杉山晴厩舎と西村淳騎手のコンビ 22年中京記念(ベレヌス)、23年ラジオNIKKEI賞(エルトンバローズ)、毎日王冠(エルトンバローズ)、24年シルクロードS(ルガル)に次ぐ重賞5勝目

