グラスワンダーが連覇した4歳時の99年有馬記念は、今でもキツネにつままれたような感覚がよみがえる。3コーナー過ぎ、後方4番手から仕掛けた的場均グラスワンダーは、最後方で脚をためた武豊スペシャルウィークのマークを受けながら一緒に上がっていく。直線に向いてグラスワンダーが抜け出したところを、ゴール前でスペシャルウィークに差された。確かに差されたのだ。

中山競馬場の日刊紙記者席はゴール板が近くて見やすい。加えてターフビジョンでも確認できる。誰もがスペシャルウィークが勝ったと思っていた。武豊も笑顔でウイニングランに移っている。各紙の記者連中と一緒に足早にエレベーターに乗り込む。

的場均は「差されたんじゃないか。負けたな」と感じ、調教師の尾形充弘も「駄目だと思って暗い気持ちで」エレベーターで降りたという。

ウイニングランを終えて検量室前に戻ってきた武豊の表情が変わったのは、掲示板に「7(グラスワンダー)」「3(スペシャルウィーク)」の順に馬番号が表示された時だ。明暗が逆転した。

首の上げ下げの勝負となったVTRを見ると、ゴール板の直前でも、その直後でも、勢いが違うスペシャルウィークの鼻先が前に出ている。ところがゴール板に到達したその瞬間だけ、グラスワンダーの鼻がわずかに出ている! 愛馬を信じて早めのスパートをかけ、距離を損してまで馬場のいい外に出した的場均の選択が、4センチ差の奇跡的な結末を生んだ。

額の星がりりしく、本当に美しい栗毛馬だった。楽勝したデビュー戦でとりこになり、早速厩舎に足を運んだことを覚えている。性格は穏やかで、首をなでるとビロードのような肌触り。前脚をたたきつける走法は迫力があった。その格好良さから、とりわけ愛された外国産馬ではなかったか。ありがとう。決して忘れない。(文中敬称略)【岡山俊明】