阪神は1点リードの9回表に大山悠輔内野手(25)の失策などで逆転を許した。その裏に近本光司外野手(25)の同点タイムリーが飛び出し、延長10回引き分けに持ち込んだ。日刊スポーツ評論家の梨田昌孝氏(66)は「負けに等しい」と阪神の戦いぶりを解説した。

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負けなかったが、勝てなかった。10回を馬場がしのいだが、最後は痛恨の引き分けに終わった。

梨田 もったいない試合だね。どちらかというなら負けに等しいといえるだろう。わたしも何度も経験したが、ベンチは10回表を乗り切ったことで心理的にちょっと安堵(あんど)した空気に包まれる。しかしそこに油断という“落とし穴”がある。

延長10回は北條の詰まった飛球が菊池涼のグラブをかすめて安打になった。代走江越が初球からスタートを切ったが盗塁死。その後も得点できず同点のままゲームセットになった。

梨田 すでに負けはないし、「同点」か「サヨナラ勝ち」しかないところに北條のラッキーなヒットが生まれた。全体的にイケイケのムードに包まれるのはわかるが、江越の盗塁死はいただけなかった。なにも初球から走ってはいけないとは言わない。ベンチからも「行けたら行け」のサインが出ていたはずだ。だが磯村が捕手としてはもっとも二塁に投げやすい外角に構えていたことや、ジョンソンの球種、フォームをうかがってもよかった。まして打者はサンズ。つまりベンチも、江越も、ムードに乗っているときこそ慎重に攻めるべきだった。

1点リードの9回1死二塁の場面は、大山の失策で追いつかれた。その直後にスアレスが会沢の適時打を浴びた。今季13試合目のマウンドに立ったスアレスは、登板した最初の対戦打者13人中、過半数の7人に出塁を許している。

梨田 9回のスアレスは先頭鈴木誠に中前打を浴びたように、先頭打者を塁にだすケースが多く、安定感に乏しい。バッターも球速のわりに怖さを感じていない。また10回は馬場が抑えたが無警戒で盗塁を許すなど危なかった。ゲームのシメのところは今後の課題として残っている。【取材・構成=寺尾博和編集委員】