師弟の絆は固い。

 20日、川崎市内のジャイアンツ球場にケーシー・マギー内野手(35)がいた。

 交流戦終了後の空き期間に2軍戦に出場するためだった。午前中から強い雨が降り、早々と試合中止が決定。室内練習場で練習が行われたのだが、マギーは真剣な表情で田代富雄2軍打撃コーチ(63)の言葉に耳を傾け、力強くディー打撃を繰り返した。

 柔らかなスポンジが2人をつないだ。13年の日本シリーズ。楽天の主砲と打撃コーチとして巨人の前に立ちはだかった。「24勝0敗」無敵の田中を第6戦で巨人が黒星をつけるも、第7戦で楽天が勝利。初の日本一となった。マギーはメジャーから来日1年目。田代コーチがスポンジボールをトスし、打つという練習を二人三脚で行い、優勝に貢献した。翌14年は米国に戻り、マーリンズと契約。海を渡ってもスポンジボールを打つ練習を継続し、カムバック賞を獲得した。田代コーチとの出会いは大きく、この日の練習後も「本当に尊敬している人。なかなか会えないから、そろそろ会いたいと思っていた。楽天でお世話になったことを思い出したよ」と笑顔で振り返るほど、尊敬の念を抱く。

 固い握手を交わし、2人の関係は強くなった。田代コーチは振り返る。13年の日本シリーズを戦い終え、優勝を決めて全員が歓喜に湧く中、マギーがロッカールームで自分を探していると関係者に呼ばれた。向かってみると満面の笑みで手を握られ、紙コップを渡された。「どうしても田代さんと乾杯したかったんだ」。そう言われて注がれたのはウイスキー。大きな手には小さいコップが満たされると、グッと一気に飲み干した。「あれはうれしかったなぁ。ケーシーの人柄を感じたよ」。気取らない勝利の美酒が染みいった。

 だからこそマギーも柔軟に助言を受け入れる。ジャイアンツ球場で、田代コーチが言ったのは「シンプルに考えればいいんだよ」ということ。技術的な部分は何点か伝えた。だがそれよりも「ケーシーは考えすぎるから。いいバッターなんだからさ、自分を信じればいい」と気持ちを楽にさせた。マギーは2軍での指導を受け、1軍に戻った22日のヤクルト戦で4打数4安打。肩の力が抜けたのか、大暴れした。試合後「いろいろな打撃コーチから教わったことができた」と自信に満ちた顔でうなずいた。

 堅く考えすぎず、柔らかい気持ちになれたからこそ結果は出た。一時的でないマギーの復調がかなえば、再びの美酒を味わう日が来る。【巨人担当 島根純】