<阪神0-8ヤクルト>◇19日◇甲子園

阪神近本光司外野手(24)がヤクルト戦の1回に右前打を放ち、今季通算154安打となった。58年長嶋茂雄の153安打を超えセ・リーグ新人最多安打記録を更新した。

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この場に居合わせたら、どれほど喜ばれたことだろう。そんな思いで、一塁ベースに立つ近本に目をこらした。亡き恩師の存在も、長嶋超えへの支えになった。

「1年間はこのままでやらせてやってほしい。スタイルを変えないでやってほしい」。近本を送り出すにあたって、大阪ガス・竹村誠前監督(享年57)が阪神畑山統括スカウトに託した言葉だ。打撃フォーム、周囲の助言を自分の糧にしていく能力を含めた「近本のスタイル」を守ってやってほしいと伝えた。

バットを振りきる力は、大阪ガス時代からスカウトの目を引いた。俊足に頼っての当て逃げはせず、全力で振る。頭を越されるのを警戒し、内野陣は前に詰めることができない。状況に応じて狙うバントヒットも、効果的に決まる。スイング力に裏付けされた技術に加え、周囲からの言葉をどうすれば血肉にできるかを考えつく能力。そこに竹村前監督はプロで通用する力を見いだし、畑山統括スカウトに託した。活躍を願いながら今年4月28日、前監督は帰らぬ人に。託した言葉は遺言になった。

畑山統括スカウトは首脳陣と情報交換した際に竹村前監督の思いを伝えたが、まず自分の形でやらせようという考えを阪神首脳陣が持っていた。さらに、近本自身が結果を出した。春季キャンプの打撃練習を見守った関係者からは「内角を攻められて、対応できるか」などの声は出た。だが実戦での結果で、近本が自分で周囲の見る目を変えていった。技術、体力に加えアマプロ双方で信じてくれる人に恵まれ、近本は球史を塗り替えた。【遊軍=堀まどか】

阪神対ヤクルト 1回裏阪神2死、右前打を放ちセ・リーグ新人最多安打となる154本目の安打を記録する近本(撮影・清水貴仁)
阪神対ヤクルト 1回裏阪神2死、右前打を放ちセ・リーグ新人最多安打となる154本目の安打を記録する近本(撮影・清水貴仁)