<読売巨人軍営業企画部 坂東秀憲氏>

こんな数式、見たことがない。「巨人×東大=電脳王」。15年に東大野球部の主務を務め、医学部を卒業後は読売巨人軍に入社。営業企画部に所属する坂東秀憲氏(25)が「eBASEBALLプロリーグ」の「eドラフト会議」での指名を狙う。競技歴10カ月ながら、プロ選手を撃破するほど腕前が上昇。現在はプロテスト2次選考に向け、練習を重ねている。なぜeスポーツの世界に飛び込んだのか。「東大eeee直線」に迫った。

eBASEBALLでプロプレーヤーを目指す巨人坂東氏(本人提供)
eBASEBALLでプロプレーヤーを目指す巨人坂東氏(本人提供)

坂東はバットの代わりにコントローラーを握った。「野球界を盛り上げるにはどうしたらいいか。仕掛けていかないと未来がないと思って。僕なりにできることを考えたら、これだった」。

超がつくほどの異色の経歴を持つ。東大に文科3類で入学後、3年時に理転。医学部健康総合科学科に進み、地方山間部の高齢者を研究した卒論は研究奨励賞を受賞し、東大総長賞にノミネートされた。野球部では主務として、報道対応など調整に力を尽くした。普通ならば医療の道か、官僚を志すが「野球が好きなので」と巨人に入社した。

トレードマークの黒縁メガネを光らせながら、選手の動画撮影、版権管理などの業務を行う中、eスポーツと出会った。18年、「eBASEBALLプロリーグ」が開始。NPBとコナミデジタルエンタテインメントが共催し、人気ゲームソフト「実況パワフルプロ野球」(以下パワプロ)を用いて、12球団の代表がプロとして2カ月のペナントレースを行った。トップ選手は最大で300万円近い報酬を獲得できる。

坂東はeスポーツ事業も担当しており「最初は仕事をする上での参考として買ったんです。どんなものかなぁと。で、触っていたらコレはいけそうだと」。

コントローラーを握ると、プロテスト合格への勝ち筋が見えた。「受かる可能性がある」と2つの理由があった。1つは競技人口の少なさ。「パワプロ」の知名度は抜群だが、ゲームの内容はNPB12球団の野球。つまり国内市場向けで、世界的にはプレーヤーがいない。もう1つは自らが野球界に身を置くこと。「パワプロって実際の野球に近いんですよ。守備シフトだったり、打撃のタイミングとか。ゲーム経験は乏しいけれど、野球漬けの経歴的にも上位選手とゲームの理解度は変わらないのではと思えた」と説明する。

秋葉原に走った。プロを目指す決心をした昨年12月、約3万円のゲーム用モニターを買った。「普通のテレビだと、コントローラーの操作が反映されるまでわずかに遅れるんですよ。パワプロは1フレーム(60分の1秒)で結果が変わる。投資して自分を追い込むためにも(笑い)」と懐を痛め、逃げ道をふさいだ。

次に勉強計画を練った。プロテストが始まる今年7月までの約7カ月を逆算。何を伸ばしていくかを考えた。「受験勉強と一緒ですね。本質を理解するんです。みんな赤本を解くじゃないですか。過去問は学校からのメッセージで、どういう思考が必要かと試している。傾向が必ずある。ゲームも一緒だったんです。なぜ勝つのか、負けるのか。どうすればそのソフトでうまくなるか、仕組みを理解しているかが、モロに出るんですよ」。導き出したのは、配球の勉強だった。

7月下旬。ネット上で始まったプロテストで坂東は東日本4位に入り、8月31日に行われる2次選考会に進んだ。ドラフト会議前の最終段階だ。快進撃の理由を「学ぶの語源って知ってますか? 諸説あるんですけど『まねぶ』って言葉なんです。そこに上達の秘密があるかもしれません」とニヤリと笑った。東大×巨人の思考。次回、哲学を掘り下げる。(本文敬称略=つづく)【島根純】