5月20日から24日まで高校野球春季大会の取材で和歌山、宇都宮に出張した。最初の2日間は省略して、3日目の22日からの様子をリポート。

【22日】

JR海南駅からタクシーで紀三井寺球場へ。前日21日は和歌山市駅7時半発のバスに乗ったが日曜日は運休。アクセス方法を探ったところ、海南からタクシーが無難と判断した。

タクシー代金は1500円ほど。途中、小高い丘の上に智弁和歌山高校のキャンパスが見えた。頭の中で同校の校歌が駆け巡る。タクシーの運転手さんと「昔は箕島が強かった」などと高校野球談議をしていると15分ほどで到着した。

検温をして受付を済ませて記者席へ。まだ8時過ぎ。誰もいない。前日と同じ前列右端の席を確保して速報の準備をした。思えばコロナ以降、密を避けるため記者席を使えることはほとんどなかった。昨年も近畿(滋賀)、関東(春山梨、秋茨城)、東北(宮城)に出掛けたが、山梨以外は記者席NG。スタンドの一角に設けられた記者スペースで作業した。スタンドで困るのが電源の確保。朝から夕方までパソコンを開きっぱなし。パソコンに内蔵されているバッテリーだけではとても持たない。このため縦長の弁当箱ほどの重いモバイルバッテリー2個を持参して作業する。今回も万が一に備えて持ってきたが、使わずに済んだ。

第1試合は大阪桐蔭-和歌山商。センバツ優勝の大阪桐蔭が9-0で7回コールド勝ち。和歌山商の先発は1年生のアンダースロー、木村健太郎投手。大阪日刊のS記者から「智弁和歌山が県大会で苦戦した投手」と聞いていたが、さすが大阪桐蔭打線。変則右腕の緩いボールにもしっかり対応。コンパクトなスイングで中堅中心に打ち返すと2回途中、7安打を浴びせ6点を奪って1年生投手をKOした。

第2試合は近江-奈良大付。近江の先発はセンバツで大活躍した山田陽翔投手(3年)。甲子園では決勝の大阪桐蔭戦で力尽きた。その後、肩や肘の故障が気になっていたが、杞憂(きゆう)に終わった。5回1/3、70球を投げ1安打無失点で6三振を奪った。最速は146キロをマーク。29日の準決勝で大阪桐蔭と対戦するが先発する可能性が高。センバツのリベンジなるか、楽しみである。

第2試合終了が14時半。さてここからが私の本日一番の大仕事である。関東大会が行われている宇都宮へ大移動しなければならないのだ。

取材を終えたS記者が段取りよく呼んでくれたタクシーで海南駅へ。15時過ぎに到着し「緑の窓口」を探す。しかし、ない。あるのは自動券売機のみ。2台あったが先客がいた。左側の台はグループ旅行のおばちゃん4人が悪戦苦闘している。こちらと目が合うと「お先にどうぞ」と譲ってくれた。

宇都宮までは、海南から特急「黒潮」で新大阪へ。新大阪から「のぞみ」で東京へ。東京から新幹線で宇都宮というルート。まずは宇都宮までの乗車券を購入。次に15時39分発の「黒潮」と乗り継ぎの17時09分発の「のぞみ」の指定席券を購入。東京からは20時ちょうど発の「なすの」に乗る予定だが、うまく購入できず断念。ふり返って後ろを見ると長蛇の列ができていた(申し訳ない)。

それでもようやく切符を買い終えてホッとしていると不穏なアナウンスが。なんと手前の御坊駅沿線周辺で火災が発生。このため「黒潮」の到着が15分ほど遅れるというのだ。数分後、今度は当初の15分が20分とさらに遅れるという知らせが入った。新大阪で乗り継ぐ予定の「のぞみ」の発車時刻は「17時09分」。「黒潮」の当初の到着時刻は16時50分。つまり間に合わない。これはまずいと駅員に問い合わせ。すると「黒潮」に乗車したら車掌に事情を話して指示を仰いで欲しいとのことだった。

結局遅れること22分。16時01分に「黒潮」乗車。するとほどなくして車掌さんの姿が。事情を説明すると「新大阪駅に着いたら緑の窓口で指定席の振り替えを行って下さい」との答え。証明するため「のぞみ」の特急券に「きのくに線沿線確認を行ったための遅れ」と赤色のペンで記入、さらに認め印を押してくれた。「これを窓口で見せれば大丈夫です」。

17時11分、新大阪に到着。「緑の窓口」はすぐ見つかったが長蛇の列。そこに並んで待つこと15分。車掌さんの赤ペン入りの特急券を見せると「大変申し訳ありませんでした」と振り替え作業をしてくれた。17時45分発の「のぞみ」と東京発20時28分発の「つばさ」の特急券をゲット。宇都宮到着予定は21時22分。当初より30分の遅れで済んだ。

ホッとすると腹が減る。「551」の豚まんでも買おうかと売店に向かったが、これまた長蛇の列で断念。缶ビールとパン、つまみを買って「のぞみ」に乗車した。

車内は混み合っていた。コロナ以降、何度か新幹線に乗る機会があったがいつも空いていた。今回は乗車率90%超。2列席の通路側。窓側の隣の席にはすでに男性客が座っていた。

ビールでも飲もうかと思ったがパソコンを開いた。昼に書いた試合速報に間違いがないかチェック。そしてメールもチェック。するとデスクから「来月の予定がまだ届いていない」と催促メールが入っていた。20日までの提出期限を出張ですっかり失念していた。高校野球や大学野球、MLBの日程などを調べて公休日を決めなければならない。そうこうしているうちにビールのことも食事のこともすっかり忘れてしまった。気が付けば「まもなく新横浜」のアナウンス。缶ビールをさわるとすでに冷たくない。「宇都宮に着いたら何か食べよう」と気持ちを切り替えた。

東京駅で新幹線を「のぞみ」から「つばさ」に乗り換え。乗車するとインドに住む友人のYさんからメッセージが入っていた。見ると宇都宮にあるおいしい餃子屋さんの紹介だった。宇都宮は餃子の街。こうなると無性に餃子が食べたくなった。21時22分、宇都宮に到着。東口にあるホテルにチェックイン。すでに21時半を回っていた。フロントのおじさんに「まだ開いている餃子屋さんはありますか」と聞くと1件教えてくれた。部屋に荷物を置いて店を探す。外国人のお姉さんが「いいお店あるよ」と日本語で声を掛けてきた。「餃子のお店はどこ?」と聞くと「あっち」と渋々教えてくれた。「そっち」の方向へ歩くと香ばしいごま油の香りが。あった! ラストオーダー1時間前。店内でも食べることができたが1人前をテークアウト。420円だった。

部屋に戻ってシャワーを浴びてまずは餃子の写真をスマホで撮影。インドの友人にメールで届けた。そして冷蔵庫で冷やし直した缶ビールで餃子を流し込む。「ふ~っ」。紀三井寺球場を出てから約8時間。和歌山~宇都宮、約750キロの長い旅が終わった。

【23日】

朝6時に起床。カーテンを開けて外を見ると雨が降っていた。天気予報では朝方は雨。次第に天気は回復し午後からは晴れるという。

準備をして7時過ぎにホテルを出て宇都宮駅へ向かった。かなりの激しい雨。駅構内にあるうどん屋さんでかき揚げうどん。タクシーで県営球場に向かった。午前8時過ぎに到着したが雨は上がり、空も明るくなり始めた。

県営球場には思い出がある。入社1年目、高校野球で担当したのが栃木県だった。久々の県営球場はリニューアルされていた。今秋の国体が栃木県内で行われるため3年前に改修された。ナイター照明、外野スタンドも設置された。3階にあった記者席はエレベーターで行けるようになった。

1985年当時はまだ清原球場はなく、県営球場が県大会のメイン会場だった。早朝6時に都内のアパートを出て上野へ。東北新幹線で宇都宮へ通った。まだデジカメではなくフィルムの時代。写真を会社に持ち帰らねばならず約2週間、日帰り出張を繰り返した。

ある日、試合が長引いた。会社に戻ってから原稿を書いていては締め切りに間に合いそうもない。デスクに相談したら「ファックスで送れ」との指示。当時はまだパソコンもワープロもなく原稿用紙に記事を書いていた。

入社間もない私はファックスで記事を送ったことがなかった。デスクに相談すると「原稿を書いたら郵便局に行け。そこでファックスしてくれるから」という。球場記者席で記事を書いてなるべく大きな郵便局を探し窓口へ。ファックスで会社に送ってくれるよう頼むと「明日の朝のお届けでいいですか」という答え。明日の朝では明日の新聞に間に合わない。その後のやりとりは忘れてしまったが、郵便局からファックス送信することは諦めた。デスクの「ホテルにもファックスはある」という言葉を思い出し、近くにあった宇都宮東武ホテルへ駆け込んだ。

(再現するとこんな感じか)

私 これをファックスで送りたいんですが。

フロント氏 かしこまりました。

私 どのくらい時間がかかりますか?

フロント氏 (原稿用紙は)何枚ありますか?

私 5枚です。

フロント氏 3分もあれば送れます。

私 あ、ありがとうございます。

数分後、原稿は無事、会社に送信された。ホテルのフロント氏に事のてん末を伝えると、郵便局がファックスを別の何かと勘違いしたのではないかとのこと。とりあえず、今後何か困ったことがあったら郵便局ではなく、大きなホテルに駆け込もうと決めた。

悪戦苦闘した新人時代。球場記者席に30数年ぶりに入ったとたんに思い出したことがあった。それは1人の美少女のことだった。彼女は地元の女子大学生でY新聞のスコア付けバイトで球場に来ていた。

記者というのは試合中、写真を撮ったり、スタンドで選手の親を取材したりと忙しい。新人記者の私は要領も悪く、なかなか落ち着いて試合を見ることができなかった。そんな時に頼りになったのが記者席にいつもいたその美少女。何度もスコアブックを見せてもらい細かな試合経過を確認。原稿を間違えずに済んだ。そして迎えた決勝戦。国学院栃木が初の甲子園出場を決めた。取材が終わって彼女を探すと帰り支度をしていた。最終日だからなのか普段とは違う鮮やかなピンク色のワンピース。2週間の礼を言ってお別れ。ただ、その後、秋になって彼女が通う大学に遊びに行った記憶がある。だから、ちゃっかり連絡先は交換していたのだと思う。授業の合間に1時間ほど話をして帰京した。その後、仕事が忙しくなり再会することなく時は過ぎてしまった。彼女の名前はどうしても思い出せなかった。

懐かしの記者席でそんな思い出に浸っていると、同僚のH記者、A記者が到着。H記者から「ナッツボン」という懐かしいあめをもらった。彼女は「ナッツボン」が手放せないらしくアマゾンでまとめ買いしているという。「ナッツボン」はなめるというよりも「カリッ」とかじるのがいいという意見で一致。2試合を速報して宿舎へ。夜は「宇都宮みんみん」で焼き餃子と水餃子を食べた。

【24日】

午前8時過ぎに球場到着。ほどなくしてH記者も到着した。バッグの中から取り出したのは保冷パックに包まれたフルーツサンド。前日食べて気に入ったらしく朝食として買ってきた。1パックに3つ入って1200円ちょっとするそうだ。そんな高級品を「一つどうぞ」とお裾分けしてくれた。半分にカットされた大きめの「とちおとめ」がゴロゴロ入っていた。フルーツサンドというよりショートケーキ。H記者、ごちそうさまでした。

第1試合は浦和学院が明秀日立に9-7で打ち勝った。ただ、浦和学院の失点はミスによるものが多く、しっかり守っていればコールド勝ちできたかもしれない。それだけ浦和学院の強さが際立った。

第2試合は浦和学院と同じ埼玉代表の山村学園が作新学院に5-1で快勝。埼玉大会で強豪の花咲徳栄を破った実力は本物だ。今夏の埼玉大会は浦和学院と山村学園の2強、さらに巻き返しを狙ってくる花咲徳栄や春4強の公立の雄・市立川越なども絡んで激戦となりそうだ。

取材を終え同僚たちとタクシーで宇都宮駅へ。お土産に持ち帰り餃子を買って帰京した。

4泊5日の出張が終了。27日からは再び和歌山へ。28日にはセンバツ決勝戦の再現となる大阪桐蔭-近江が紀三井寺球場で行われる。【デジタル編集部 福田豊】