これぞ“超変革”阪神タイガースに、かつてなかったプランと直面した。3月5日(土)の出来事。1、2軍とも今季初のホームグラウンドでの試合日だった。なのに、金本監督がユニホーム姿で鳴尾浜球場にやってきた。前日、今季期待の若手・江越をファームへ落としたことへの計らいかと思ったが、来場したのが大事な1軍の試合前の練習時間中。重要な用件であることは見え見え。全首脳陣が来場の意図を意識した事に意義があった。指導方法の一本化だ。過去、誰もがわかっていながら実行されなかったのは、各コーチがそれぞれの持論を全面に出し、どの選手にも同じアドバイスをしていたところにあった。直々の来場で、風通しかよくなった。OBとしても大いに期待が持てる行動だった。

 掛布2軍監督と積極的に言葉を交わした。意図は十分以上に伝わってきた。江越の2軍落ちをきっかけにして本人(金本監督)がわざわざ出向いて、自らの行動によって方向性を知らしめたのだ。「江越のこともあったが、他にも中谷ら将来楽しみな選手がいるから」と語っていたが、本音は「指導は1軍と2軍で統一してほしい。今回も、今までやってきたことを継続してアドバイスしてほしいし、どういうところが悪くて、どういうところを修正してほしいか、などを掛布さんと話をしました。期待の選手ですから、ぶれずにアドバイスしていきたい」からの鳴尾浜である。

 過去の阪神を振り返ってみる。我々の現役時代もそうだったが、チームには必ず1、2軍に担当コーチがいる。両コーチの指導が統一されているなら問題はないが、ピッチングにしろ、バッティングにしろ上半身と下半身の使い方、バランスの取り方など自分の形を身に付けようと練習するが、選手にとって最も悩み苦しむのは両コーチのアドバイスに違いがある場合だ。特に若い選手はコーチの指導に逆らうわけにいかず、つい気を遣って両方の意見を聞き入れてしまう。そのアドバイスによってフォームのバランスを崩したり、はたまた故障につながることさえある。結局は自分の力を出し切れず球界を去っていく若手を何人も見てきた。二者択一、自分にあったフォームを自分で選択できる人はいいが、取捨選択できない選手は意外に多いもの。それだけにこの一本化問題が浸透するならば見通しは明るくなる。

 あとは、1軍にいた選手がファーム落ちを通告された時の精神状態だ。ハートの強い人、弱い人さまざまだが、首脳陣に反発して投げやりになるケースは怖い。私にもあった。後々冷静になって考えてみると、自己中心的なわがままから生じたもので、果たして江越はどうか。「このファームの時間を大切にしたいですね。それと、今、自分が何をしたいか、自分で考えて野球に取り組みたい」と気合十分。ファーム落ちを言い渡された時は、涙を浮かべて悔しがっったと聞いた。掛布2軍監督に性格等を聞いてみると「ハートは強い選手ですから」というから精神面の心配ない。答えはどう出るか。

 超変革。明るく、厳しく。妥協は許さない等々、キャンプから厳しさは表面に出し、すでに浸透しつつある。先日の緒方の死球も肉か骨かをたずねそのまま一塁に。ここ数年シーズン終盤になると落ち込んでいた、ひ弱なチームが頼もしくなりつつある。金本監督が打ち出した指導方針も、チーム作りには大変大事なこと。超変革は一歩、一歩順調にいい方向に進んでいる。その答えが出るのはシーズン終了後だが、指導方針の一本化。江越に「2軍へ落としたままではない」ところを見せた全選手への配慮。金本監督の人間性を見た。見通しは明るい。選手が信頼してついていける監督と見た。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)