<ファーム選手権:楽天8-2阪神>◇8日◇宮崎

田村藤夫氏(62)は、阪神高卒3年目・井上広大外野手(21=履正社)の初回のバッティングに、打点を求められる打者としての課題を感じた。

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阪神は初回、高山が先頭打者ホームランを放ち先制。板山がヒットで続き、小野寺はベンチからのランエンドヒットのサインに、楽天先発松井友のカーブをうまく拾いレフト前へ。楽天外野にエラーが出て無死二、三塁。4番井上という場面だった。

しっかり状況が頭に入っているかが問われる、重要な局面だった。松井友はボールが高めに抜け、苦しんでいる。ここで追加点を奪えば、さらに苦しくなる。内野陣のポジションは下がっていた。内野ゴロでの失点はやむなし、アウトを稼ぎ切り抜けたい。楽天ベンチは2点目は覚悟している、私はそう解釈していた。

井上は初球カーブを見逃してストライク。2球目のインコース真っすぐを振って2ストライク。3球目はカットボールがボール。カウント1-2からの4球目、抜けたカットボールが内角に来て空振り三振。見逃せばボール球だった。

追い込まれるまでは思い切ったスイングでいい。松井友のピッチングはボールとストライクがはっきりしていた。抜けるボールも多い。その中で2球目の内角真っすぐはボール球も空振り。もう少し選球眼を磨けば、とも思うが0-2までの流れはやむを得ないと映った。

ただし、追い込まれたところで、井上は頭の中で整理ができていたか? ここで求められるのは1点につながるバッティング。ヒットが出れば言うことはないが、外野フライが打てればオッケー。内野守備陣の位置からすれば、バットに当てて内野ゴロでも2点目が入る。さらに1死三塁にする可能性もあった。

つまりこの状況では、三振は何にもならないということが分かっていたか、ということだ。ファームでのシーズンを通し、打率は2割2分も、打点70は見るべき数字だ。打点を稼ぐことはファームであっても4番の役割だ。この一発勝負の選手権でも、この局面での2点目は、楽天松井友にはかなりのダメージになり、なおも1死三塁が作れれば、初回3得点も現実味を帯びてくる。試合を決めにかかる流れも見えていた。

凡打にも内容がある。このケースでは三振は絶対に避けるべきで、内野ゴロでも得点が見込める。4球目の抜けたカットボールは最低でもファウルで逃げる意識がほしかった。大げさに言うなら、追い込まれてからのこの1球への対応に、試合の行方がかかっているとすら言えた。

1死二、三塁となり、続く前川は初球チェンジアップを見逃してストライク。2球目の低めチェンジアップを打つも、バットの先でボテボテの内野ゴロ。この時、楽天の内野は前進守備になっており、三塁走者は動けなかった。前川は真っすぐ狙いでスイングしたと思うが、低めのチェンジアップに打ち取られた。

内野が前進守備になっていたことから、狙うべきは外野フライ。そのためには外野へ飛球を打ちやすい高めに合わせ、ストライクゾーンを上げる工夫が求められた。高卒ルーキーに、ずいぶんと高度な要求をするなと思われるかもしれないが、こうした選手権という特別な試合で、何が足りなかったかをじっくり考えることは、むしろ成功して良かったと喜ぶことよりも、後々の教訓を得ることができる。

阪神はこれから大きくチームが変わっていくだろう。岡田さんが監督に内定し、それに伴い2軍の監督も替わるだろう。監督が替われば、特に若い選手はチャンスが増える。右の3年目井上や、左の1年目前川にとっては、1軍で試される機会も出てくるだろう。

そうした時、ここで1点がほしいケースで、いかに頭の中を整理し打席に入るか。いきなり主軸で出場することは考えづらい。7番や8番で出場し、例えば無死二、三塁で打席が回ってきた時、ベンチは下位打線で何とか1点、と期待するだろう。そうなった時に、この選手権での失敗を糧にしてもらいたい。

追い込まれるまでは自分のスイング。追い込まれてからどう臨むか。内野の守備位置はどうか。相手投手のこの日の好不調を踏まえ、自分の打撃の状況を加味して、もっとも1点につながる可能性の高いバッティングを実践できるか。そこが問われる。

1軍はすなわち結果だ。勝つためにはルーキーもベテランも考慮されない。そして、1点の重みは2軍の数倍にもなる。今年の開幕戦で阪神はヤクルト相手に7点の大量リードしながら勝てなかった。どんなに点差があろうとも、あと1点、もう1点が1軍の試合になる。そこに、若く期待される井上、前川が割って入るためのヒントが、この敗戦に詰まっている。

勝った楽天では捕手安田に、試合の流れに乗っていける何かを感じた。2回裏、2死一塁で盗塁を刺している。捕球してからスローイングまで速い。送球が見事だった。二塁ベースのほぼ真上に、高さはショートがかがんで捕球する絶妙の高さだった。

直後の3回表は先頭打者。阪神の先発桐敷から四球を選び、この回5得点の口火を切っている。盗塁を刺してから、四球で出塁して大量得点のきっかけをつくる。首脳陣からすれば使ってみたくなるだろう。そういうものは選手としては非常に大切だ。

ファーム選手権は一発勝負という特殊性がある。プロ野球では、短期決戦であっても最低でもCSファーストステージのように2試合は行われる。まるで高校野球のトーナメントのような1試合のみで勝敗が決するファーム選手権は、選手が普段感じない重圧を受けるだろうと思う。

そこで出てきた課題や、収穫は秋季キャンプ、年明けのキャンプで、1軍に生き残るためのヒントになる。私は、近々開幕するフェニックスリーグまで足を運び、主に関東以西のチームを見て、期待できる選手、思いのほか伸び悩んでいる選手の動きをリポートしたい。(日刊スポーツ評論家)