<フェニックスリーグ:DeNA5-1阪神>◇16日◇宮崎サンマリンスタジアム

両リーグのCSが終わり、来季へ向けて数チームが新しい首脳陣で動きだした。田村藤夫氏(62)が取材に訪れた阪神も、岡田新監督が誕生した。

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阪神の2軍は平田監督が率いている。私は平田監督と同い年で、その熱い人間性は理解している。チームは来季から1軍に新監督を迎えて大きく変わっていくだろう。2軍もその影響をもろに受ける。岡田監督が就任会見を行ったのが16日。来季から1軍ヘッドに就任する平田監督も、残り少なくなったファーム選手との日々に、ますます燃えている。

シートノックが終わりミーティングのために選手がベンチ前に集まる。平田監督の怒鳴り声がスタンドに響き渡ってきた。「だからヤクルトにCSで負けるんだ」「エラーで負けてるんだぞ」「そんなんじゃ、ヤクルトに勝てないんだ」。衆人環視などそっちのけだ。いかにも熱い平田監督らしい言葉に、サンマリンスタジアム全体を張り詰めた空気が包む。そんな感覚になった。

そもそもシートノックでは、そこまでの失策はなかった。動きが悪いなとも思わなかった。ファームの試合前シートノックとして、特別に違和感はなかった。

だが、平田監督はそんなことは承知の上でげきを飛ばしているのだろうと感じた。臆測でものを言って申し訳ないが、最初からシートノックの中身に関係なく、そういう言葉をぶつけて一切の緩んだ空気を締め出した上で試合に入ろうとしていたのかな、とも感じた。

5回裏、1点リードで阪神の攻撃。私はなかなか見られない光景を目にした。先頭打者の8番栄枝が四球で出塁。9番遠藤のカウント2-2から走って刺される。DeNAの捕手は山本。そして遠藤は中前打で出塁。1番小幡の初球に再び走ってアウト。山本の送球はどちらも素晴らしかった。

2死走者なし。小幡は四球で出塁。私はどうするんだろうと思っていたが、小幡は2球目に走った。山本の送球がショートバウンドになり盗塁成功。さらにその送球がそれて三塁に達した。続く高寺も四球。こうなると高寺から目が離せない。だが、続く前川が2球目を打って凡打。ただし、高寺の動きは走る気満々だった。

盗塁→アウト、盗塁→アウト、そして盗塁→成功。こういう場面はあるにはあるが、なかなかない。つまり、平田監督の試合前の怒声も、こういう場面につながってくるのだろうと感じる。通常、最初の盗塁失敗で、次の走者は走りづらくなる。にもかかわらず遠藤は小幡の初球にスタートを切っている。

いくら結果はあまり関係のないフェニックスリーグとはいえ、遠藤の決断は簡単ではない。アウトにはなったが、この失敗は遠藤に貴重なものを授けたと私は感じる。直前に盗塁失敗したすぐ後、初球にスタートを切ることの難しさ、決断した時の情景は、遠藤の大切なデータになる。今後、相手バッテリー、点差、イニングなど細かい状況までまったく同じとはならないだろうが、スタートを切る時の勇気を体感できたことは、とても重要だ。

そして、三度目の正直で盗塁を決めた小幡も、得難い経験だろう。連続盗塁失敗の後の3度目。こんな経験は、そうはできない。もちろんベンチのサインだろうが、徹底して行けという平田監督のメッセージがこもっている気がする。

激しいげきで引き締め、緊張感を与えた中で、どこまで走れるかのハードルを設けた。続いてチャレンジする選手はどんどん難度が増していくが、だからこそ、やらせる価値も出てくる。

言うまでもなく、来季平田ヘッドは、この2軍メンバーから1軍でテストする選手を何人も引っ張りあげるだろう。そのチャンスを与えるにふさわしいか、このフェニックスリーグでじっくり見ている。そして、その構図を選手がよく理解してこその、1イニング2盗塁死と1盗塁の特徴的な攻撃ということになる。少なくもその経験値は選手を育てるはずだ。

フェニックスリーグでは、こんな場面に出くわすことができるから、見ていて学びがある。平田監督の怒鳴り声が響いた後、こんな展開は想像もしていなかった。阪神はどう変わっていくのだろう。少なくともあの5回裏の攻撃から、走ろうとする選手の意識だけは、何か変わったのではないかと感じた。

17日は楽天-中日を取材する予定。(日刊スポーツ評論家)