広島に完封勝利し、笑顔を見せる西勇輝。右は梅野(撮影・岩下翔太)
広島に完封勝利し、笑顔を見せる西勇輝。右は梅野(撮影・岩下翔太)

西勇輝は大したものだ。最大の特徴は不調でも試合をつくる安定感だ。現在の阪神投手陣の中では、まさにエースと言うべき存在である。この日もその安定感をいかんなく発揮しての今季初完封だった。台所事情が苦しい救援陣を休ませた力投は称賛に値する。

その上で、いや、だからこそ言いたいことがある。7回、西の打席だ。この時点で3-0。西に課せられた残りの仕事は8、9回で6アウトを取るのみ。普通に考えれば打席に立っているだけ、あるいはさっさと空振り三振してベンチに戻る場面だと思った。しかし西は3、5回と同様にここでも打ってでて、最後はきわどいタイミングの二ゴロに倒れた。

わざと凡退するなんてよくない…などというのはプロでは関係ない。手を抜いているのではなく、完投を目指して、あの場面でやるべき最善の行為はアウトになることだったと思う。

この日はNHKが中継していた。解説は日刊スポーツ評論家でもある宮本慎也だった。宮本はこう繰り返していた。「巨人に勝たないとダメなんでね。西はこれで中5日で巨人戦に投げられますよね。もうローテーションを崩しても巨人に当てていかないと」。

まさにその通りだと思うし、阪神はそうすべきだろう。優勝の行方はほぼ動かないにしても、15日からの東京ドーム3連戦はペナントレースを最後まで面白くするための最後のチャンスだと思っている。ローテーションがどうなるかは知らないが、そこでエース西が投げなくてどうすると思ってしまう。

だからこそ、あの打席で西が打って出るのはどうだったのか。いつも笑顔で投げている西は気持ちよく野球をしたいタイプなのだろう。打席が巡れば打ちたいというのも理解できる。しかし打って走って思わぬアクシデントということはある。あそこはベンチが「打つな」と明確に指示すべきだったのではないか。

そこまでの流れで「3点差では分からない」とは思っていなかったと思うが、好投している西のメンタルに水を差すという考えはひょっとしてあったのかもしれない。あるいは指示はあったが選手の本能で打ってしまったのかもしれない。

ベンチの内実はこの時点では分からない。それでも勝つためにはやるべきことをやるのが当然だし、そうする、そうさせる厳しさが大事だと思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

3回表広島1死、上本の遊ゴロをさばいた木浪にサムズアップポーズを見せる西勇(撮影・岩下翔太)
3回表広島1死、上本の遊ゴロをさばいた木浪にサムズアップポーズを見せる西勇(撮影・岩下翔太)