勝たなければならないゲームに勝った。これは大きい。この日、梅野隆太郎が右腹斜筋の筋挫傷で登録抹消された。これまで不調で2軍に落ちたことはあるが故障では初めてだという。ケガに強い梅野にとっては試練だ。どう見ても梅野はチームの中心的選手である。そんな男の戦線離脱。言うまでもなくチームにとってもピンチだ。

そんな日に勝つか負けるか。これはかなり違う。負ければズルズルいってしまう恐れもある。そんな大事な局面で阪神は勝った。しかも国産主砲・大山悠輔の“6ラン”という胸のすく豪快な勝ち方で、だ。

特に6回の20号逆転満塁弾は素晴らしかった。大山に期待していたのはこういう本塁打だ。チームの危機を一撃で救う主砲の一発。本塁打の魅力をすべて感じさせる1本だった。

阪神の「生え抜き」かつ「右打ち」打者の20本超えは17年の中谷将大以来だ。その中谷は06年の浜中治以来の20本超えだった。前回は11年かかったが今回は3年だったことになる。中谷もまだ現役だが。

以前、浜中に話を聞いたとき、20発打てたのは当時の指揮官・岡田彰布の“口撃”が理由だったかも…ということを言った。03年、優勝した阪神で浜中は開幕4番だったが早々と右肩を故障して離脱。復帰を目指し、リハビリを経てのシーズンとなったが06年は開幕スタメンではなかった。

「オープン戦で打てなくて開幕前から岡田監督にボロクソ言われてたんですよ。『あいつ、全然、打てへんやん』みたいに。思えば岡田さんの作戦だったのかもしれませんけど」。その“口撃”でずっとおとなしさを指摘されていた浜中が燃え、20本塁打に結びついたという歴史だ。

今回、大山と指揮官・矢野燿大の間にも少しだけ似たようなことがあった。1週間の11日広島戦。併殺を喫した大山に対し、あまり個人名を挙げない矢野が「もっと頑張ってほしい」と苦言。それを受けて大山は翌12日の同戦で本塁打を放ったのだが13日には犠打を命じられた。それについて矢野は「普通の作戦」と言い切った。こんな流れが当時の浜中同様、おとなしさが指摘される大山に火をつけたのならば面白い。

口数の少ない大山がチームにカツを入れるのは打つことによってだろう。梅野が抜けた今、さらに打ちまくってチームを引っ張っていってほしいと願う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)