日米球界のレジェンド・イチローがオリックスで世に出てきた94年に注目されたのは、のちに彼の代名詞になる安打数ではなかった。打率である。日本球界ではいまだに未達成の「打率4割」が話題になった。
だが本人はもっと違うことを考えていたよう。その頃に「目標は何か」と聞いたときに笑いながらポツリこんな話をした。「そりゃあ全部の打球をフェアグラウンドの中に落とすことです。目標と言えば、それが目標ですね」。
ボクは打率10割を目指している-。そんな話をしたのであった。「ええ?」と思ったが、その後、彼がどういう存在になったのかは誰もが知るところだろう。さすがに「10割」には届かなかったけれど。
そんな昔話を書く気になったのは木浪聖也の働きを見たからだ。開幕4戦目にして今季初スタメン。2四球を選ぶと6回に中前打。小幡竜平に途中交代した。3月29日の巨人戦で今季初出場し、1打数で決勝内野安打を放っている。従って、これで2打数2安打の「打率10割」となった。
こんな段階で数字のことを言うのに何の意味もないのだけれど「10割」は面白い。生き残りに懸命だったオープン戦で打率がいいと話すと「そんなのすぐ切れる(終わり)じゃないですか」と笑っていたが好調はキープしている。
何よりいいなと思うのは、木浪の必死さがチームに波及している感じがするからだ。木浪が安打を放った6回、その気配が強く出ていたと感じる。無死一、三塁で高寺望夢が犠飛。これで生還した三走・佐藤輝明がヘッドスライディングを見せると、そのプレーにドラフト同期の高寺がほえて呼応していたのである。
29日巨人戦では木浪、若い中川勇斗がそれぞれヘッスラを見せた。当たり前だが全力でプレーすることをチーム全体で示している印象。その中心に木浪がいるとまでは言わないが、彼のガッツが好影響を及ぼしているならいいことだ。
「受ける側ではなく攻めていくことが重要と思うので。選手たちがグラウンドで非常に踊ってくれたと思います」。指揮官・藤川球児のコメントもそのあたりがあってのことだと思う。
イチローでもあるまいし、このまま木浪が「打率10割で行く!」などと書けば、それこそエープリルフールのコラムになってしまうけれど木浪も阪神も熱気はこのままでいってほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)




