横浜(現DeNA)元監督で、楽天では編成本部長も務めた山下大輔氏(64)が、大スターに成長した愛弟子を訪ねた。昨年、メジャーのナ・リーグで首位打者、盗塁王を獲得し、守備でもゴールドグラブ賞に輝いたマーリンズのディー・ゴードン二塁手(27)。山下氏がドジャースのマイナーコーチ時代、ゴードンを指導していた。米国フロリダで6年ぶりの再会となった。

(2016年4月12日付紙面から)

6年ぶりに再会した山下大輔氏(左)とディー・ゴードン
6年ぶりに再会した山下大輔氏(左)とディー・ゴードン

 フロリダ州の東海岸にあるマーリンズのキャンプ地ジュピター。南国ムードが漂う暖かい日差しの中で、ゴードンと6年ぶりの再会を果たした。「昨年の首位打者、盗塁王、おめでとう」。声をかけると、ゴードンは私にハグしてくれた。


 ゴードン ありがとう。わざわざ会いに来てくれたのかい? それより今の体調は大丈夫なのかい?


 今や大リーグのスターとなった彼との接点は7年前にさかのぼる。09年、10年と、私はドジャースのルーキーリーグでコーチを務めた。そのとき、当時20歳だったゴードンを指導した。11年も継続する予定だったが、体調を崩したため断念した経緯がある。ゴードンが体調を気にしてくれた理由はそこにある。

 私の教えが、どこまで役に立ったかは分からない。ただ、彼と出会え、共に野球をした時間は財産になっている。昨年限りでユニホームを脱いで時間ができたこともあり、一流選手に成長したゴードンに会いに米国までやってきた。

 守備練習を見た。昨年ついにゴールドグラブ賞を獲得したぐらいだから、上達しているのは分かっていた。ただ、彼が基本に忠実なプレーをしている姿を見ると非常に感慨深いものがある。丁寧に打球に入って処理しているし、同僚に指示を出すなどチーム全体を考えて行動していた。当時を思えば、信じられない成長といっていい。

 09年3月。「トッププロスペクト(期待の若手)」と期待されていたゴードンの守備指導を任された。体は細かったが、バネは素晴らしかった。素材は間違いなく超一級品だと思った。ただ、守備は雑だった。腰を落として捕ることも、足を使って送球することもできない。

 グラブのはめ方から指導した覚えもある。グラブの小指部分に薬指まで入れ、中指、人さし指も小指側にずらしていた。つまり捕球部分…親指と人さし指の間隔を広く空けていた。理由を聞くと、彼は「だって強いボールを捕った時に痛いんだもん」と笑っていた。「内野手は素手の感覚が大事だよ。グラブは手と同じように使えないといけないよ」と、直すよう指導したが、なかなか言うことを聞かなかった。直したのは指導して2年目だった。

 そんなゴードンの育成が、私に課された使命だった。当時ド軍は守備を教えられる日本人コーチを探しており、縁があって私が引き受けることになった。型にはめない米国流の指導は、生まれ持った素材の勝負になる傾向が強い。それでも激しい競争の中から超一流が出てくるが、ド軍は基本に忠実な「日本流」を加えようとしていた。

 どうやってゴードンを指導するか、頭を悩ませた覚えがある。まさか日本の若手と同じようにノックの嵐で鍛えるわけにはいかない。マイナーでも練習時間が少ないので、私は早出の個人練習を提案し、基本練習を始めた。ゴードンも日本流の練習に戸惑いがあったかもしれない。

 ただ、今回再会した時に「いろいろなことを教わったけど、当時は本当には理解できていなかった。でも、今は分かるよ。毎日実感しているよ」と言ってもらった。ゴードンとの基本練習を少しばかり紹介したい。(つづく)


 ◆ディー・ゴードン 1988年4月22日、米フロリダ州生まれ。08年ドラフト4巡目(全体127位)でドジャース入団、11年初昇格。俊足の内野手で14年盗塁王。マーリンズに移籍した15年は首位打者、最多安打、2年連続の盗塁王、ゴールドグラブ賞。180センチ、77キロ。右投げ左打ち。