全国高校野球選手権の代替となる各都道府県の独自大会が23日全国各地で行われ、熊本では城南地区大会などが開催された。今月初旬以降の記録的な豪雨で、約2割の部員が自宅の全壊など被災した人吉は、地元復興への願いを胸に9-3で御船・矢部の連合チームに快勝した。

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人吉ナインが地元復興への願いを胸に戦った。2-3と逆転された直後の3回裏。1死から3連打に適時失策がからみ、執念で試合をひっくり返した。

地元を愛する気持ちがパワーになった。球磨村の自宅が水没で全壊した4番・三塁の尾崎龍馬内野手(3年)は「地域の同じ経験をした人が前向きな気持ちになってもらえたり、少しはあるかな」と言い、2安打で貢献。同村で氾濫した球磨川横の自宅が2階まで水没した尾崎太透捕手(3年)も「勝つことで被災地復興につなげたかった」と、3投手を好リードし3失点に抑えた。

同校がある人吉市は、記録的な豪雨で甚大な被害を受けた。同高の被災はなく14日から9日ぶりに再開したが、野球部員48人(マネジャー6人含む)の中には、家族を亡くしたり、自宅の全壊や浸水被害などを受けた生徒が約2割いる。コロナ禍に追い打ちをかける困難の中、各自が自主的に、被災したチームメートの家や、住む地域の清掃活動などを行い励まし合ってきた。

特に14人が亡くなった球磨村の特別老人ホーム「千寿園」近くから通学する複数の部員宅が全壊した。会社員で消防団活動も行い、今でも車中泊を続ける尾崎龍の父謙信さん(45)は「過去に床上60センチの浸水はあったが、ここまでになるとは思わなかった。6日に家に戻ったが、畳は浮き上がり、屋根が下がっていた。家もずれて変形していた」と、惨劇を振り返る。

今でも同村では、大勢が避難所生活を強いられ、尾崎龍もこの日、避難先の人吉第一中から試合に臨んだ。「部屋はぐちゃぐちゃだったが、(野球道具は)流されずうれしかった。洗って今使っています」。次戦も奇跡的に残った宝もののスパイクやユニホームで全力を尽くす。【菊川光一】