新型コロナウイルス感染症の影響で、春のセンバツ、夏の選手権大会が中止となり、高校球児たちはいつもと違う夏を迎えている。

女子部員も同じだ。さいたま市立浦和高の佐藤百華投手(3年)と鈴木夏緒(なお)捕手(3年)は、高校入学から約2年4カ月、男子と一緒にプレーしてきた。女子の公式戦の登録は認められていないが、13日に行われた埼玉大会3回戦、細田学園戦では、ボールガールとして同じグラウンドで選手とともに戦った。

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7回裏(最終回)2死二塁のピンチ。佐藤は左翼側ファウルゾーンから、橋本剛石投手(3年)の投球を見守った。1点差の息詰まる投手戦。最後の打者を遊飛に打ち取ると、笑顔がはじけた。1対0の勝利。「声も出せないですが、高ぶっていました。鳥肌が立ちました」。ベンチ横から見守った鈴木も「これが夏の大会の独特な雰囲気なんだと感じました」と充実感を漂わせた。

3回には2人で“見せ場”もつくった。ファウルボールを拾った佐藤がベンチに向かって約40メートルの遠投。投手らしい美しいフォームで投げ込むと、ボールは小気味良い音を立てて鈴木のミットに収まった。見事な“ストライク投球”に、ベンチも活気づいた。

2人はともに小学生の時に野球を始め、中学時代も男子とともに白球を追った。市浦和には2学年上に同校初の女子野球部員だった広瀬毬子さん(現筑波大1年)がおり、文武両道を目指して同校に入学した。しかし最終学年の今年、コロナ禍に入試時期も重なり、チームは2月末から6月中旬まで活動できず、夏の選手権大会も中止になった。

同校は、東大、一橋大などの国公立大に毎年100人以上の合格者を出す進学校だ。女子の高校野球公式戦への登録・出場も現状は認められておらず「勉強に切り替える人もいる中で、一度は続けるかどうするか考えました」(佐藤)と葛藤した時期もあったという。それでも独自大会の開催が決まり「一度やると決めたことは最後までやり切ると決めた」(鈴木)。練習再開後も、男子部員と汗を流してきた。

佐藤は投手として「球速も上がり、下半身もしっかりしてきた。(再開後の)1カ月半で、フォームもずっと研究してきました」。鈴木は「小さい頃から高校野球に憧れていた。仲間と一緒に目標に向かってきて、野球の本当の楽しさを知りました」。今月2日の練習試合で「引退試合」も行い、選手を経験したからこその成長も実感している。

佐藤は卒業後、進学予定だが、クラブチームなど「本気で野球ができるところでやりたい」。鈴木は、看護師になる夢を追いながら「野球には携わっていきたい」。15日に4回戦を控える。2人の「特別な夏」は、まだ続く。【大友陽平】

○…市浦和は部活動休止期間をへて、1人も退部者を出さずに夏の大会を迎えた。鈴木諭監督(46)は「女子2人が辞めるそぶりを一切見せずに、逆に男子部員も巻き込んだ自主トレもして戻ってきてくれた。それがとにかくうれしかったです」。吉川将生主将(3年)も「2人のモチベーションも気になりましたが、大丈夫でした」と振り返る。高校野球は各都道府県で代替試合などが行われているが、“区切り”をつけられるかさえ分からない競技もある。鈴木監督は「今日も緊迫した試合を経験できた。改めて大会を開かせてもらえることに感謝したいです」と話した。