第73回秋季全道高校野球が4日、札幌円山、札幌麻生の両球場で開幕した。6年ぶり出場の函館大有斗は元阪神投手で昨秋就任した古溝克之監督(56)が遠軽戦で道大会初采配。「打線のカギ」と期待する4安打3打点の3番中本憲太左翼手(2年)を中心に計10安打で8-7で競り勝ち、道大会初白星を挙げた。

   ◇   ◇   ◇

校歌を歌い上げる函館大有斗ナインを古溝監督はベンチの片隅で静かに見つめた。遠軽とのシーソーゲームを8-7で制し道大会初采配初白星。就任2年目、56歳の“新米指揮官”は「ちょっとしたミスが命取りになる。みんなにも今までと違うよと言ってきた。地区よりドキドキした。プロと違い一発勝負は怖いね」。チームとしても17年夏以来の道大会1勝となった。

「教えられないけど見る目はある」。そう冗談めかす指揮官が戦前に「カギになる」と予想した3番中本が期待に応えた。初回1死二塁で先制の中前適時打を放つと、7-6の8回1死二塁ではダメ押しの右越え適時二塁打。タイムリー2本を含む4安打は全て直球を捉え「地区では変化球で崩れたのでストレートを狙った。後は気持ちです」。10安打8得点のチームの中でひときわ輝きを放った。 元プロ投手は最高の教材だ。打者にも投手目線でアドバイスする。中本は「ここでストレートが来たら次はスライダーとか、けん制の癖を教えてもらった」という。甲子園通算13度出場の古豪のナインは日々の練習から常に勉強を続けてきた。古溝監督も「この場面で走るだろうとか、走らないだろうとか。今日もこういう野球があるんだと。意外性があった」。3度の盗塁死を含めて12度盗塁を仕掛けた相手の戦術に「すごく勉強になった」。負けたら終わりの高校野球だからこその世界を肌で感じた。

阪神などで15年のプロ生活を送った経験則で投手には試合中に余計な声がけはしない。この日も2点差をつけられなお2死一、二塁の場面で1年生右腕の石岡流音を投入。背番号10は「落ち着いて投げられた」と後続を断つと9回の1失点に食い止めた。選手の特長を把握し、信じ抜いた。

6日の2回戦は阪神でチームメートだった有倉雅史監督(53)率いる札幌国際情報が相手。古溝監督は元プロ対決に「強いんでね。負けたくない」。選手と一体となって勝利を求める気持ちは、現役時代から変わることなどない。【浅水友輝】

◆古溝克之(ふるみぞ・かつゆき)1963年(昭38)11月14日、福島県生まれ。福島商で甲子園に2度出場。専売東北を経て84年ドラフトで阪急に2位で入団。93年にトレードで阪神に移籍し、救援投手として活躍。94年に7月の月間MVP(4勝5S)を受賞し、同年25SPの成績を認められセ・リーグ会長特別賞を受賞した。95年に球宴出場。通算33勝51敗42S。