元日本ハムの広瀬哲朗氏(58)は今年5月から「Kids Duo International池上」(東京都大田区)で3~6歳児に野球を教えている。前回は実際の指導方法や風景を紹介したが、今回は「幼児教育」における注意点や保護者に求めたいことを聞いた。

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現役引退後、中高生や女子球児の指導を行ってきた広瀬氏だが、本格的に幼児を教えるのは今回が初めてだ。

-未就学の子どもを教える時に気をつけていることはなんですか

広瀬氏 野球をやる、教えるというより、まず動いているボールに慣れることが肝心。ボールに対してとっさに体が動くようにすることが大事です。俊敏性というか、子どもたちの身のこなしを気にかけています。

-最初からうまくできる子もいれば、できない子もいる

広瀬氏 当たり前ですが、最初からうまくできる子は少ない。今、18人の子どもを教えていますが、いきなりできる子は2、3人ですね。それでも「ダメ」とか「そうじゃない」とかは言いません。決めつけ、押しつけが最もダメ。繰り返し、繰り返しです。差はありますが、毎週毎週少しずつ成長していますよ。

-就学するまでにどのレベルまで教えていけばいいのですか

広瀬氏 私が重要視しているのは「格好良くやる」ということです。投げる、打つ、走る。とにかく格好良くできるようにする。そのためにはひじ、腕の使い方を覚えてもらうことですね。どういうプレーでも、ひじが伸びた状態ではいい結果が生まれない。幼児のころは上半身だけでいい。下半身の使い方は体が大きくなったあとに覚える方がいいんです。

-野球教室のあとには必ず保護者の方々と話していますね。なぜですか

広瀬氏 家に戻ってからやって欲しいことを伝えています。特に2点。1点目は柔軟体操。前に曲げる、後ろに伸ばすといった動作を習慣づけて欲しい。体が柔らかいと回復力が違うし、ケガもしなくなる。もう1つが足裏マッサージです。足の裏を刺激すると運動神経が発達するんです。イチロー選手のお父さんが毎日やっていたという話は有名ですね。

-メンタル面でも保護者の方々にアドバイスしている

広瀬氏 根性、という言葉は頭から省いてくださいと言っています。昔は「ボールから逃げるな」とか「体で止めろ」とか言っていましたが、やっぱりボールが当たったら痛いでしょ(笑い)。逃げていいんです。ボールを体で止めずに済むような身のこなし、グラブさばきを教えてあげればいいんです。根性と努力は違います。

-広瀬さんといえばガッツプレー。出身の駒大もどちらかというとスパルタ野球でした

広瀬氏 ここ5年くらいかな、子どもの野球に接していて、周りの大人たちが強制するやり方に違和感を覚えるようになったんです。「プロに行きたいだろ」「だったらこれをやれ」と言う指導者がいるんですが、プロにもなっていない人が言ったら無責任ですよね。小学校まではいろんなスポーツをやって、好きなものを探せばいい。中学から野球を本格的に始めても遅くない。その前に野球をやめてしまう、嫌いになってしまうことだけは避けなくちゃいけない。

-今後はどういう指導を行っていく考えですか

広瀬氏 道具とか練習方法とか、われわれが子供の時より進歩しています。技術的には今の方が上でしょう。だから、まずは楽しむこと。野球は楽しいと思ってもらえることを意識してやっていきます。(終わり)

◆広瀬哲朗(ひろせ・てつろう)1961年(昭36)1月23日生まれ、静岡県出身。富士宮北-駒大-本田技研から85年にドラフト1位で日本ハムに入団。好守巧打の内野手として活躍し、ベストナイン2回、ゴールデングラブ賞2回、オールスター3回出場。98年の現役引退後は評論活動をしながら、女子野球・日本代表監督も務めた。全国各地で少年少女の指導も行い、昨年9月から株式会社WIN AGENT(体育指導のスタートライン)に入社し、首都圏各地にて、野球教室を開催中。