興奮を隠しきれない。阪神矢野燿大監督が質問を遮って、まくし立てた試合後会見があった。6月6日ロッテ戦。ZOZOマリンの三塁側スイングルームで自ら切り出す。「感動せえへん? みんなしてくれているの? ホンマに。あの1イニング、どんなんか分かる?」。その直後、別の質問になっても、制して「ちょっと、その前に待ってくれる?」と続けた。

1点を勝ち越した直後の延長10回裏だ。矢野が土壇場で抜てきしたのは島本浩也だ。レアードをスライダーで二ゴロ、中村奨をフォークで空振り三振…。プロ初セーブを挙げた。会見後、ロッカーで島本を見つけると「よう頑張った!!」と声を張り上げ、思わず抱き合った。

矢野の「信じる」用兵が演出した一戦だろう。5月8日ヤクルト戦。5点リードの8回に起用した福永が打たれて追いつかれて延長戦へ。12回に2点を勝ち越し、島本が同点とされて引き分け。セーブ機会に失敗していた。試合後、矢野からLINEが届いた。あの場面は、さらに2死二塁で西田を右飛に抑え、踏みとどまっていた。敗戦をまぬがれ「よく頑張った」とねぎらわれたが、逆に負けん気に火がついた。

「点を取られたのに、そう言っていただいて…。次は絶対にやり返そうって。もう、ああいう場面で投げさせてもらえるチャンスはないと思っていました。でもロッテ戦で巡ってきた。1回失敗したのが頭をよぎりましたけど嫌なよぎり方ではなくて。気持ち的に絶対に抑えられると思った」

昨季は1軍でわずか1試合登板にとどまり、ふがいなさが募った。前向きになれたのはスマートフォンで見た記事だ。10月下旬。新監督に就任した矢野の発言が出ていた。「島本も飯田も(救援で)いける」。選手は指揮官のコメントに敏感だ。島本は「自分の名前も挙がって。1軍でも使えるという。そこでヨシッ、俺もチャンスあるって思いましたね」と振り返った。

今年は前半戦だけで自己最多の37試合で2勝1セーブで防御率2・86の好成績だ。窮地からはい上がった島本は「腕を振れるようになった」と言う。矢野の細やかなアドバイスも大きな後押しになった。4月16日ヤクルト戦(松山)は1回無失点だったが左打者の太田に外角一辺倒の配球で、外寄り速球をライナーで左前に運ばれた。翌日、神宮で練習中、矢野に「お前のいいところは何や」と問われた。「インコースに投げきれるところです」と答えると返ってきた。

「バッター、全然、怖がってないで。あとは投げっぷりやろ」

内角攻めを徹底し、必勝リレーに加わるまでに成長した。島本が心に留めるのは神宮での会話だ。「それを、いまは意識してやっています」。このやりとりには続きがある。目標を聞かれ「70試合くらい投げたいです」と答えた。必死に自分の居場所を作ってきた。176センチ、73キロ。しなやかな細腕繁盛記である。(敬称略、おわり)