あこがれの舞台とファンだった相手を前に、167センチ右腕が大きな勝利を挙げた。地元兵庫出身のプロ2年目、山本拓実投手(19)だ。幼少時代からファンだった阪神を相手に6回4安打1失点の好投。伸びのある直球と切れ味鋭い変化球を投げ込む堂々とした投球で、プロ初勝利をつかんだ。

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小さな巨人に、なるぞ! 山本は勇気と決意を、甲子園からもらった。中日入りし、今では敵地になったが、慣れ親しんだ球場。阪神が好きで、藤川にあこがれて、ファンクラブの会員にまでなって通った場所で、プロ初勝利を挙げた。虎党の奏でる応援歌も「聴いたことのある曲ばかり」。そんな舞台で勝ったことが、信じられなかった。

「本当にうれしいという気持ちしかないです。高校生のときは夢にも思っていなかった。実際に今日勝ててうれしいです」。緊張の汗でびっしょりの手で与田監督から勝利球を受け取り、監督をほほえませた。

デビュー戦も甲子園だった。昨年9月12日、2回を無失点に抑えた。この日は6回1失点でリードを守り、9回はベンチの端っこで岡田の投球に目をこらした。守護神の呼吸に合わせるように息をしながら、勝利を祈った。

3回まで完全投球。4回に近本に二盗を決められ、糸井の適時打で1点を失うも、前日2本塁打のソラーテを封じ込めた。3-1の6回無死一塁で「インコースにしっかり投げる」とスライダーで二ゴロ併殺。福留、大山、マルテにも安打を許さなかった。

167センチの小柄な右腕。市西宮(兵庫)3年の夏を終え、進学よりプロを選ぼうとしたときに身長を懸念する声は周囲にあった。だが信念を持って、山本はプロ志望届を提出した。この日、甲子園で見守った市西宮の恩師、吉田俊介監督(34)は、2年秋の近畿大会地区予選で尼崎小田に5-8と惜敗したときを思い出し「(あの時から)ずっとプロを意識して頑張ってきたのだと思います」と、日々の練習に懸命に取り組んでいた姿を思い起こした。

父勝三さん、母奈緒美さんら家族がスタンドから見守る前で「自分は体の大きな選手に負けたくないと思ってピッチャーをやってきました。野球少年の希望になれれば」と夢を語った山本。1つ勝つたびに、あとに続く球児を増やしていく。【堀まどか】

▽中日与田監督(山本の初勝利に)「堂々としたピッチングだった。ランナーを背負ってもあわてることなく、よく投げてくれた。(4回2死満塁で5球連続ファウルで粘って阪神青柳に12球を投げさせた)打席を見ても、相手に立ち向かっていく姿があった」

◆山本拓実(やまもと・たくみ)2000年(平12)1月31日生まれ、兵庫県出身。兵庫県有数の公立進学校の市西宮に進学。3年夏兵庫大会ではチームを準々決勝に導いたが、報徳学園に延長10回サヨナラ負けを喫した。17年ドラフト6位で中日入り。18年9月12日、甲子園での阪神戦でプロ初登板。2年目の今季はウエスタン・リーグで13試合に登板し2勝6敗、防御率3・34。167センチ、71キロ。右投げ右打ち。

▼小兵選手 現役の小兵投手の代表は、中日山本や谷元と同じ167センチの左腕石川(ヤクルト)だ。抜群の制球力を誇る石川は通算167勝をマーク(※育成選手を含めれば投手では、山川(巨人)が166センチで現役では最小兵)。

野手では西武の内野手水口が163センチで最も低く、167センチの福田(オリックス)らもいる。ドラフト以前では、ともに156センチだった浜崎真二投手(阪急)と浜崎忠治内野手(中部日本=中日)が最小兵。現役最長身は、中日から移籍した外野手のモヤ(オリックス)と廖任磊投手(西武)の201センチ。