阪神ドラフト1位森木大智投手(19)が、プロ初登板初先発で大器の片りんを見せつけた。

6回4安打、4奪三振、3失点。5回までは1安打投球で中日打線を圧倒した。6回に3点を失い、2リーグ制後球団初となる高卒新人初登板初勝利とはならなかったが、大きな可能性を示した。森木と高知中・高で6年間バッテリーを組み、現在、近大硬式野球部1年の吉岡七斗捕手(19)が秘話を明かした。

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吉岡の予感は的中してしまった。「6回、先頭が出て“いつもの失点パターン”と思ったんですよね…」。森木は疲れが出ると右肘が下がり、球の質が下がる。カウントも悪くなり痛打される。元相棒は、どこか懐かしそうに言った。「高校の時と一緒ですね…(苦笑い)。でも、5回まではベストピッチだったと思います」。テレビ画面の向こうで躍動する右腕にねぎらいの言葉を送った。

野球ができない相棒の分まで-。森木はそんな思いも背負っていたのかもしれない。高知中・高で森木と6年間バッテリーを組んだ吉岡は今、懸命に復活の道を歩んでいる。昨年11月、右肘のトミー・ジョン手術を受けた。中学時代から不安を抱えていた右肘は、高校野球を終えた時には、とっくに限界を超えていた。

「森木の良さを引き出せるのは僕しかいないと思ってやってきましたから」

自分の代わりはいないと思っていたから、休めなかった。痛みを我慢し、試合に出場し続けた代償だった。

昨秋、大阪・高槻市内の病院で手術が必要だと告げられた。森木は付き添い、隣の部屋にいた。「マジか…」。絶句した後、静かに決断を待ってくれた。プロに入ってからは、同じトミー・ジョン手術を受けたことがある阪神の先輩に、リハビリのアドバイスも聞いてくれた。

思えば、いつでも前向きな男だ。高校2年の秋、四国大会1回戦で高松商に敗戦。センバツの夢が絶望的となった次の日、部室ではち合わせた。無言で自転車に乗り、グラウンドへ向かっていると、爆速で追いかけてきた。

「いつまで暗い顔しちゅうがな!」「なに下向いちゅうがな!」

吉岡いわく「怒っていた」。自らもショックだったはずだ。それでも、自分にも言い聞かせるように、仲間を叱咤(しった)。その心の強さが、どれほどありがたかった。今は身に染みる。

「あいつの活躍を見て、電話とかで話もしていたら、『俺は今けがしてるし…』なんて、後ろめたい気持ちすら、しょうもなくなるんです。だから、当然のようにリハビリを頑張って、戻るんだっていう感覚でいなければいけないんです」

6年間、その剛球で何度ミットを破壊されたことか。鋭い変化をするスプリットに、指を突いた過去は数え切れない。サインミスで体に速球が直撃し、生命の危機すら感じたこともある。全身にあざを作りながら支えてくれた吉岡がいなければ、プロの世界に進めていなかったのかもしれない。そして、そのプロの舞台で躍動する姿に、吉岡もエネルギーをもらう。

「もう1度捕手として勝負できるように。大智と、もう1度一緒にできるように。そう強く思っています」

再会する時は、グラウンドで-。森木もそう願っているはずだ。【阪神担当 中野椋】

◆吉岡七斗(よしおか・ななと)2003年(平15)6月1日生まれ、高知県高岡郡出身。加茂小1年時に「加茂スポーツ少年団」で野球を始める。高知中に進学後、森木とバッテリーを組み軟式野球部で全国制覇。高知高では1年夏からベンチ入り。3年夏は主将で県準優勝。近大に進学し、現在は右肘トミー・ジョン手術のリハビリに励む。遠投は100メートル、50メートル走は6秒0。178センチ、85キロ。右投げ左打ち。

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