DeNAの三嶋一輝投手(32)が7日、神奈川・横須賀市の球団施設「DOCK」での秋季トレーニング後に、8月に受けた国指定の難病「黄色靱帯(じんたい)骨化症」の手術からの復活に向け、胸中を明かした。

「2時間くらいしゃべりますけれど、いいですか?」。笑顔で冗談も言えるほど、術後の回復は順調な様子だ。すでに約40メートルのキャッチボールや、全力ダッシュなども、チームメートと一緒に汗を流せるほど。「自分ではもっと出来るけれど、ゆっくりやっている」と自制しながら、一歩一歩慎重に。「野球選手でこういう診断をされてバリバリやっている人は、ほぼいらっしゃらない。第1号の選手になりたい。だから焦る必要はない。前しか向いていないですよ」。

手術は今年の8月末。だが、手術を受けるまでの葛藤、決断は半年以上に及んだことも、初めて明かした。最初に異変を感じた自覚症状は1月中旬、「ひねったりするトレーニングだったのですけれど、腰のあたりがグッとなったんですよ」。直後から左足に力が入らなくなった。「歩くのもしんどいし、足も上げづらいし、マッサージしてもダメだし、ストレッチしてもダメだし」。

2月のキャンプ。自他ともにリリーフ投手陣としての期待は高く、原因が分からないまま突入した。「中継ぎのポジションを誰かにチャンスを与えちゃダメだと思っていて、競争しなきゃいけないし、下から若いのはどんどん出てくるし、やっぱり渡したくないし。隙を見せちゃいけないというのは一番あって。なんとか乗り越えようと思ってやっていた」。誰にも症状を悟られないように無理を続けた。だが、症状が消える日は1日もなかった。

「自分で言うのもおかしいですけれど、意外と足は速いんですよ。50メートル5秒7くらい。僕の中では全然走れていなかったのですが、6秒ちょっとだけど、他の選手とは一緒に走れるんですよ」。首脳陣に症状は相談はしたが、選手に気付かれることはほとんどなかった。左足に力が入らなくても投げることができる投球フォームや球種も模索し、シーズンに突入。だが4月下旬、無理は今まで痛めたことのない右肩をも痛みが襲った。ついに5月7日の広島戦で西川にサヨナラ本塁打を喫した直後、三浦監督に「病院に行かせてください。すみません」と願い出た。球団の発表は「右肩痛」での登録抹消。難病が原因だということは、その時点では本人も分かってはいなかった。

5月下旬、「脊髄が骨になって神経をかなり圧迫している」と医師から診断を受けた。いくつもの病院を訪れるほど、医師の見解もさまざまだった。同じ病気で苦しんだ元ロッテの南や、元楽天の井坂らにも直接相談した。元ソフトバンク大隣、元巨人の越智にも間接的に助言をもらった。最終的には8月下旬、自身が信頼をおけた医師から「今すぐ手術しないと、歩けなくなる。圧迫段階で手術したほうがいい」の言葉を信じ、決断した。

「世界で初めての術式で、先生が丁寧にうまくやってくれて、僕もその手術を大成功にもっていきたい」。約5時間に及ぶ大手術。3~4割程度しか力の入らなくなっていた左足が、約2週間後には右足以上の力感を得たことが光明だった。

術後の8月31日、仲間の言葉も闘志の火を燃やしてくれた。ともに切磋琢磨(せっさたくま)しあいながら抑えの座を競ってきた山崎のヒーローインタビューだった。「三嶋さんが(病気と)一生懸命戦っていく中で、ブルペンとして1日でも速く復帰出来るように、僕たちも一生懸命戦っていく。三嶋さんにもエールを送っていただけると助かります」。横浜スタジアムの大観衆だけでなく、日本中の野球ファンに呼びかけてくれた。直後にはLINEでもエールが届き、動画を探して言葉を聞いた。「名指しで大きな舞台で言ってくれ、すごくうれしかったですし、感謝しています。これから先、ずっと忘れない」と原動力の1つだ。

今季は伊勢や入江ら若手も台頭し、山崎やエスコバーも奮闘し、「僕は手放している」と表現したリリーフ陣の争いが激化していることも活力だ。「チャンスを与えた側だから、それをとりにいかないといけない。過去は過去だし、新しい自分をつくって、またマウンドに上がる」と強い気持ちも失っていない。若手に対しても「『すごい調子良いらしいよ』とか、良い意味で、しつこい先輩になれればいいな」。

家族、球団スタッフ、仲間、医師、支えてくれたすべての人への恩返しは、野球で。そう思っている。「1軍で『あいつ復活したの』って言われるには、術前よりいいことかな? とか、そういうことしか考えていない。難病を克服出来るのも少ししかいないし、逆に考えたらおいしいのかなとも思う。同じ症状の人もそうだし、(痛みなどの)原因が分からなくて野球を辞める人もいっぱいいる。そういう人の力にもなりたいし、楽しみがたくさんある」。

三嶋の復活-。過去にも勝るマウンドでの未来は、どんな姿なのか-。ハマスタのお立ち台での完全復活宣言を、みんなが待っている。【鎌田直秀】