日刊スポーツでは、不定期企画「虎を深掘り。」で23年の岡田阪神に迫ります。

第2回は3月31日、DeNAとの開幕戦で見せた板山祐太郎外野手(29)のスーパープレーを深掘り。開幕4連勝の裏側にあった好守備はどのようにして生まれたのか。右翼板山、中堅近本光司外野手(28)、筒井壮1軍外野守備走塁コーチ(48)の証言とともに迫った。【取材・構成=中野椋】

    ◇    ◇    ◇

決して大きく取り上げられることはなかったが、阪神の開幕4連勝に欠かせないプレーがある。3月31日、DeNAとの開幕戦。7回表1死走者なし、4点リードの場面だ。左打者関根の右中間への大きな当たりに、6回から守備固めとして右翼に入った板山が反応。背走しながらフェンス手前ウォーニングゾーンでスライディングキャッチした。

「打った瞬間、自分の中では『捕れる』と思った」。打球を見ながら落下地点に一直線だった。ただ、4年ぶりに声出し応援が再開されたシーズン。「声の連係が取れないのは分かっていた」。耳からの情報は頼れない。打球を目で追いながら、同じく右中間へ走った中堅近本との距離をどう測っていたのか。小学2年で野球を始めた頃から培ってきたものが、助けてくれた。

板山 “感覚視野”っていうのかな。例えば、前を見ているのに視野の端にあるものも、ぼやっと見えるじゃないですか。小さい頃からずっと野球をやっていて、感覚的にそれがある。だからチカ(近本)の動きも感覚的には分かっていました。

打球をつかんだのは、やや右翼寄りにも見えるが右中間のほぼど真ん中。どちらが打球にチャレンジするのか、一瞬でも迷いが生じていれば間に合っていないだろう。近本は「歓声で声なんて聞こえないので、目視で(連係を)やろうと。打球が来て、あ~無理かな…やっぱり無理や~…となった。その『無理や』ってなる前に、板さん(板山)に任せようかなと」。2人の間には、最終的には10メートル弱ほどの距離があった。準備と経験が、接触のアクシデントも生まない美技を生んだ。

冷静な連係の一方、板山には熱い気持ちもあった。フェンスへの恐怖心は「ないです」と言い切った。「フェンスが気になって落とすことの方が僕は怖い。別にぶつかって痛い分には…。打球を落とす方が(チームにとっても)痛いじゃないですか」。フェンス激突はスライディングすることで回避。ファインプレーにはガッツも欠かせない。

外野守備走塁を担当する筒井コーチは「横の連係とフェンスとの距離といったところで難しいプレーですよ」と振り返る。「声出し応援が解禁されて『どういう状況になるのか』というのは伝えてきたので。それによく応えてくれた。キャンプから積み重ねてきた板山の勤勉さが出たプレーじゃないかな」。2月の沖縄・宜野座キャンプでは声を出さない“サイレント”状態でノックを行ったこともある。地道な積み重ねが今、生きている。

最大7点差をひっくり返された昨季開幕ヤクルト戦のことを考えれば、独特の雰囲気に包まれた「3・31」も、点差はいくらあってもよかった。8回表には2点差にまで迫られ、岡田監督も試合後、「去年の見てたからね。俺はそういうシーンが頭によぎったね」と言った。抜けていれば三塁打でもおかしくない当たりをものにしたことが持つ意味は、大きい。

板山 取れるアウトを捕っていくということが、今年のチームのテーマだと思うので。ファインプレーというより、まずやれることをやる。その中で投手を助けられるように準備していくつもりです。

岡田阪神を支える職人たちのプレーから目が離せない。

【関連記事】阪神ニュース一覧