日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

   ◇   ◇   ◇

関西の人気番組で知られるABCラジオ「おはようパーソナリティ小縣裕介です」(月~木、午前6時半から9時)では、阪神が勝利を収めた翌朝に「六甲おろし」の合唱とともに、ジェット風船が飛ばされる。

ジェット風船が乱舞して“甲子園”と化すのは日本唯一。さすがに海外にはないから「世界でひとつだけの番組」といえる。あらかじめスタッフが専用空気入れで膨らませる手の込みよう。いつも朝からご苦労なことだと思っている。

毎週金曜日はABCのプリンス古川昌希がパーソナリティを務める。名物番組と評されるのは、突然、岡田彰布が登場したかと思えば、虎史上ただ1人の日本一監督・吉田義男が現れて本音トークを展開することもあるのだろう。

7月4日の番組では阪神がノーエラーを続けていることが話題になった。交流戦明けのDeNAに3連敗した後、6月27日からの中日、巨人6連戦を無失策で乗り切った。それまで最長だった5試合連続ノーエラーを塗り替えたのだ。

そこで思い出したのは2月1日、春季キャンプ(沖縄・宜野座)初日に繰り広げられた光景だ。キャンプメニューをみると、その年の監督が、いかなる野球で勝つことに挑戦しようとしているかが感じられる。

阪神は初日の午前中から全員ノックをメニューに組み込んだ。シートノック後、内外野3カ所に分かれての練習を採用した。その後は走塁にも重点を置く。岡田が「守りの野球」に徹する覚悟が強くにじんだキャンプだった。

岡田は「現役時代に監督の吉田さんが“守りで攻めろ”と言われたのは初めて聞いた教えだったので印象が強い」という。かたや“牛若丸”と称された吉田は「守りで攻めると言ったのは川上さんだと思いますよ」と謙遜した。

川上家に確認すると「球際」の言葉を編み出したのは、やはり巨人V9監督・川上哲治だった。「球際のプレー、球際の野球はわたしの造語で、相撲の土俵際の強さから採った。土壇場まであきらめない。高度なベースボール、高度なプレーがプロの魅力だ」と言い残した。

そして先週の阪神は、対広島、ヤクルトの5試合(1試合は中止)も無失策で守り抜いた。ノーエラーのゲームは11試合まで伸びたことになる。シーズン折り返しまで残り6戦。“オカダの考え”がさらに深まれば、甲子園でジェット風船が復活する日も近づく。

 (敬称略)