DeNAにトレード移籍が決まったヤクルト西浦直亨内野手(32)は、ルーキーイヤーの14年に当時は史上初の「新人の開幕戦プロ初打席初球初アーチ」を決めた。

14年3月28日のDeNA戦(神宮)で、法大の先輩でもある三嶋の初球を左中間席への3ランに仕留めた。翌日の同年3月29日の紙面記事を復刻版で紹介する。

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最下位脱出を狙うヤクルトにニューヒーローが飛び出した。セ、パ両リーグが開幕した28日、ドラフト2位ルーキー西浦直亨(なおみち)内野手(22=法大)が、新人の開幕戦では史上2人目となるプロ初打席の初アーチを放った。初球では初の快挙だ。1回裏1死一、三塁、大学の先輩となるDeNA三嶋の初球を左中間スタンドへ3ラン。チームは昨年最下位で、オープン戦でもわずか1勝の最下位。大方から2年連続の最下位に予想されているが、もしかして救世主になるかも?

ヤクルトファンですら予想しない、一撃だった。4点を先制した1回1死一、三塁で、打席にはルーキーの西浦。緊張してもおかしくないプロ初打席だが「積極的に振ると決めていた」と迷いはなかった。三嶋の初球を振り抜くと、打球は左中間席へ飛び込んだ。史上初の「新人の開幕戦プロ初打席の初球本塁打」に「人ごとのようですね。正直、うまくいきすぎて驚いています」とはにかんだ。

スローイングに定評があり、ポスト宮本と期待される。だが、開幕スタメン抜てきの最大の理由は守備より「ずぶとさ」にあった。何かと不安なプロ1年目。つい験担ぎなどに頼りたくなるところだが、一切やらない。「気を取られたくないから。自然体でいくようにしているだけですよ」。

そんな自然体が首脳陣の目に留まった。キャンプでコーチに厳しく指導されても、焦った様子もなく淡々と聞いており、城石内野守備走塁コーチは「新人の時って注意されたら必死な表情で聞くけどねえ」と苦笑いしていた。オープン戦では凡打しても、悔しがる様子もなく次打席に。そんな姿を、小川監督は「こんな新人は初めて。うれしいのか、悔しいのか分かりづらいね。でもプロ向き」と評し、起用に踏み切った。

開幕前日も思い切った行動に出ていた。「(三嶋に)打たせてくださいとお願いしようかな」と口にしていたが、上下関係の厳しい大学の先輩だけに、周囲は冗談と受け止めていた。だが、本当に無料通信アプリ「LINE(ライン)」で「明日お願いします」と連絡していた。「打つなよ」と返信がきたというが、西浦は「打ってやるって気持ちだけでした」と、先輩打ちを狙っていた。

この精神力の強さがヤクルトに欠けているものだった。昨季は最下位に沈み、オープン戦も1勝しかできず最下位。開幕前に明るい話題はなかった。そんな中で、西浦が新風を呼び込んで開幕戦勝利に導いた。

お立ち台では「ホームランボールは両親にプレゼントします」と初々しいコメントをしたが、数分後には「無難ですよね」と反省していた。何もかも新人らしくない。「いいスタートが切れたので勢いに乗っていきたい。タフにいきます」。おとなしいヤクルトに、頼もしいスター誕生の予感が漂う。【浜本卓也】

◆西浦アラカルト◆

・経歴 1991年(平3)4月11日、奈良県生まれ。天理高から法大。

・サイズ 178センチ、75キロ。

・8割男 天理高3年夏の奈良県大会で21打数17安打の打率8割1分。

・あこがれは宮本慎也氏 「いつか背番号(3)を倍(宮本氏の6)にできるような選手になれるよう頑張りたい」。春季キャンプでは直接助言され「初めて話をさせていただきました!」と感激した。

・眠りにこだわり 入寮には「疲労回復が一番大事」と低反発のマットレスとオーダーメード枕を持参。

・好物 オムライスが好き。お酒も好きだが「プロに入ってからは飲む余裕がありません」と、練習に打ち込む。

(2014年3月29日付 日刊スポーツ紙面から)