<阪神1-3巨人>◇21日◇甲子園

 「巨人沢村」の物語は伝統の一戦、聖地・甲子園から始まった。巨人ルーキー沢村拓一投手(23)が、プロ2度目の先発マウンドに立ち、7回を6安打1失点に抑え、プロ初勝利を挙げた。初回は2死満塁、2回以降もピンチの連続だったが、最少失点にしのいだ。決してエリート街道を歩んだわけではない、沢村らしいプロ1勝だった。チームも今季最初の伝統の阪神戦に2勝1敗と勝ち越した。

 転んでも転んでも起き上がる。沢村らしい初勝利だった。6回だ。1点差に詰め寄られ、1死二塁。球場のボルテージは最高潮に。7番城島をスライダーで空振り三振。グラブをポンとたたいた。捕手の返球をつかむしぐさにも自然と力が入る。それだけ、勝ちたかった。プロ入り最多、107球の力投に「これだけたくさんのファンの中で投げられて楽しかったですね。勝ててよかったです」と、少しだけ表情も和らいだ。

 豪快に走塁ミスもした。3回1死一、二塁の二塁走者。脇谷のライナー性の打球に飛び出し併殺となった。直前にバントも失敗し、「ものすごく迷惑かけたので、中盤にかけてはいいピッチングがしたかった」と、借りを返す気迫を見せた。

 反骨精神で上りつめた人生だ。母和子さん(54)は2月の沖縄キャンプに訪れた際、「気疲れもあるでしょうけど、そういうところも見せないです。内心びびってると思いますよ。ただ、負けん気は強かったですね」と話した。広島から大阪移動日の18日、高校時代に誰もが憧れる甲子園のマウンドについて、沢村は「ピッチャーじゃなかったんで。どの球場も同じですから」と言った。高校最後の夏、投手だったが背番号は9。悔しさを押し殺すかのような言葉だった。

 大学時代、一気に駆け上がった。「これと決めたらやる」意志の強さを持っていた。担当の井上スカウトは「遊びたい年頃だけど練習熱心だった。今どき珍しいタイプですよ」と証言。食事や遊びなどチームメートに誘われても、練習すると言って断る姿があったという。周りにどう思われても練習に熱中できる実直さ。「プロで2ケタ勝つ」。明確な目標があったからこそできたことだった。

 プロ初勝利は同世代の日本ハム斎藤、広島福井に先を越された。その日はチーム宿舎でテレビ観戦だった。15日の初登板後、自らの投球やフォームを映像でチェック。高めに浮いた球も見られたが「抑えられたんで問題ないと思います」と勝てるイメージはあった。一番乗りではない。だがそこから追いつき、巻き返す泥臭さが沢村らしさを物語っている。高校時代に立てなかったマウンドで、プロ初の晴れ舞台を作り上げた。

 チームは2連勝し、原監督も「素晴らしいカードの中、彼のプロ野球生活が、素晴らしい場所で1勝目を飾れたのは意義がある」とたたえた。OBの藤田、城之内、江川、上原ら歴代の名投手が、甲子園初登板では黒星を喫したが、難なくはねのけた。4万人を超える観衆のマウンド。ウイニングボールは「育ててくれた両親に渡すと思います」。新しい「巨人の沢村」の歴史が聖地・甲子園で生まれた。【斎藤庸裕】