ついに、やっと、いよいよ…納谷改め王鵬(20=大嶽)の新十両昇進に、周囲もさまざまな感情を抱いていただろう。春場所前の2月。東京・江東区の大嶽部屋で朝稽古を取材した際に、師匠の大嶽親方(元十両大竜)が「新しいしこ名、早く発表したいですね。大鵬親方も、喜ぶと思うから」と、少年のような笑みを浮かべていたのが懐かしく感じる。

新しいしこ名は、次男の三段目「鵬山」、四男の幕下「夢道鵬」とともに、字画数などにもこだわっていると聞く。本来は偉大な祖父のしこ名「大鵬」を継がせたいところだが、一代年寄のため使えない。先月の新十両会見で師匠は「(大鵬と)どこか似た名前をと。『大』にかわるものとして『王』をつけた。昔から『王』『王』という感じで、マッチしていた。風貌が王鵬という感じ。今もそうだけど、あまりしゃべらないというがわが道を行くという。どっしりと落ち着いたところがある」としこ名の由来を力説。万感の思いだったはずだ。

王鵬を取材していると、祖父への愛情が伝わってくる。「小さい時にじいちゃんの相撲を見て、最初に相撲の格好良さが分かったのがおじいちゃん。今でもすごく格好いいというのは変わらない」。場所が終われば、欠かさず祖父の墓前に足を運ぶという。取組後の囲み取材では、報道陣に祖父のことを聞かれる機会も多いが、いつも毅然(きぜん)と対応。「注目されることはうれしい。たいしたことないなと見劣りしないように頑張るだけです」。師匠の言葉によると、自他共に認める「おじいちゃん子」とのことだ。

初場所(来年1月10日初日、東京・両国国技館)の10日目、19日が祖父の命日になる。関取として土俵に上がる孫の姿を、天国から温かく見守っているはずだ。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)