13日にドナルド・トランプ米大統領が国家非常事態を宣言したことを受けてパニックが広がったアメリカでは、多くの国民が日用品や食料品を求めてスーパーマーケットや大型量販店に殺到し、あっと言う間に棚が空っぽになりました。

普段なら渋滞している朝の時間帯も道路はガラガラ。映画の看板に替わってネットフリックスやアマゾンプライムの作品の広告が目立ちます
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この数日前にはトム・ハンクス夫妻が新型コロナウイルスに感染していることを公表し、米ナショナルバスケットボールリーグ(NBA)ユタ・ジャズの選手の感染も発覚してシーズン中止が決まるなど衝撃的なニュースが相次ぎ、来月ロサンゼルス(LA)郊外の砂漠地帯で開催予定だった大規模野外フェス「コーチェラ」の延期も決まるなど、危機感が増していることを誰もが肌で感じ始めた先週末、ハリウッド映画業界に新たな衝撃が走りました。この週末3日間の映画の興行収入が過去20年間で最低となる5530万ドルだったことが明らかになりました。これは、2001年9月11日に起きた同時多発テロ当時よりも少なく、00年9月に記録した5450万ドル以来となる低水準で、感染拡大を受けて全米の映画館から客足が遠のいていることが顕著になりました。

すでに中国や欧州では映画館が閉鎖されており、世界興行が大幅に減少している上にさらなる追い打ちをかけるように、13日にロサンゼルスとニューヨークで全ての映画館が閉鎖されることも決まり、ハリウッドはコロナショックに見舞われています。映画館が天候以外の理由で閉鎖されるのは史上初めてで、これによってハリウッドの映画産業は200億ドルもの損失が出ると見込まれています。

先週だけで、ウォルト・ディズニーが中国の伝記をモチーフにしたアニメ映画の実写版「ムーラン」を始め「ザ・ニュー・ミュータンツ」「アントラーズ」の公開を延期することを発表したほか、人気アクション映画「ワイルド・スピード」シリーズ第9弾「ワイルド・スピード/ジェット・ブレイク」、「クワイエット・プレイス PART2」も公開延期が決まっています。また、映画関連のイベントでも毎年ラスベガスで行われる劇場主や映画業界関係者に向けて今後のラインナップをお披露目するコンベンション「シネコン」が中止されたほか、アナハイムで来月10日から開催予定だったマンガやアニメ、映画のコンベンション「ワンダーコン」や同15日にニューヨークで開催予定だったトライベッカ映画祭も延期されることになりました。「ムーラン」や「クワイエット・プレイス PART2」に至っては公開を前提にLAでプレミアまで行っていたにも関わらず、急きょ延期が決まるなど大混乱の1週間でした。

また、影響を受けているのはすでに完成した映画の公開だけではありません。ハンクスが出演するエルビス・プレスリーの伝記映画は、ハンクスの感染を受けて即座に撮影が中止。他にもディズニーの実写映画「リトル・マーメイド」や、ロバート・パティンソンがバットマンを演じる「バットマン」、「ジュラシック・ワールド」シリーズ第三弾「ジュラシック・ワールド ドミニオン」、シルベスタ・スタローンが監督・主演を務めるSFアクション映画「サマリタン」などの撮影も延期が決まっています。また、マーベリック・スタジオのマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のドラマシリーズ「ロキ」と「ワンダビジョン」の製作が中断したと米バラエティー誌が報じたほか、オーランド・ブルーム主演のアマゾンのオリジナルドラマ「カーニバル・ロウ」もチェコ・プラハでの撮影が中断されており、ストリーミング配信コンテンツにも影響が出ています。

50人以上が集まるイベントは今後8週間禁止され、映画館は少なくとも今月末までは閉鎖が決まっていますが、状況次第ではその後も延長される可能性があり、テレビの製作現場でも一部の番組の製作が中止されるなどしており、映画スタジオ、テレビ局、映画館、その関連会社、そして映画産業で働く人々や映画関係者を顧客に持つ周辺の店舗など、エンターテイメント業界全体への影響は計り知れません。ハリウッドにとって最も稼ぎ時となる夏のサマームービーへの影響も避けられず、さらに長期化すれば年末のホリデーシーズン、はたまた来年のアカデミー賞などにも影響が出てくる可能性さえあります。コロナショックがハリウッド映画に与える影響は、予想を遥かに超えるものとなりそうです。【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)