今月も歌舞伎からミュージカル、宝塚、小劇場まで20本近い舞台を見ました。市村正親主演のミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」では、04年以来6回目となる市村テヴィエが娘たちと交わす情愛がより深まって、胸が熱くなりました。900回の上演回数を数えた初代テヴィエの森繁久彌さんは73歳まで演じたけれど、72歳の市村には74歳、75歳になっても演じ続けてほしいと思いました。

ドラマ「半沢直樹」での敵役ぶりが話題となった市川猿之助は、井上ひさしさんの初期の傑作「藪原検校」に挑み、検校の座を得るために殺しなど悪行の限りを尽くす男を演じて痛快さを感じるほど。猿之助にはピカレスク(悪党)がよく似合います。

そして、若手で気になる俳優にも出会いました。ミュージカル「マリー・アントワネット」で、悲劇の王妃マリー・アントワネットの恋人であるフェルセン伯爵役で出演した甲斐翔真(23)です。田代万里生とのダブルキャストですが、彼の舞台を見るのは初めてでした。昨年1月のミュージカル「デスノート」でミュージカル初挑戦ながら、夜神月役で村井良大とのダブルキャストで主演しましたが、私が見たのは村井出演の公演でした。昨年11月のミュージカル「RENT」にもロジャー役(堂珍嘉邦とのダブルキャスト)で出演しましたが、公演途中で舞台出演者にコロナ感染が広がり、甲斐自身も感染し、公演そのものが中止となったため、見る機会を逃してしまいました。

まさに三度目の正直で、甲斐の舞台を見たのですが、舞台映えする容姿に驚きました。185センチの長身で、高校時代までサッカー部に所属しゴールキーパーとして活躍していたそうです。貴公子然とした品のある立ち振る舞いに加え、「私たちは泣かない」「遠い稲妻」などの歌でも、歴代の井上芳雄、田代、古川雄大のフェルセン俳優に負けていません。何よりもマリーへのけなげな献身ぶりが印象的でした。

甲斐は16年に「仮面ライダーエグゼイド」でドラマデビューしました。「仮面ライダー」には佐藤健、菅田将暉、福士蒼汰らも出演していましたが、ミュージカル界の先輩の浦井健司も00年「仮面ライダークウガ」がデビュー作でした。1年ほどの短期間に3作ものミュージカルに主演、大役で出演している甲斐は、次代のミュージカル界を背負う存在になっていくでしょう。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)