学校法人森友学園の前理事長、籠池泰典被告(65)、妻諄子(じゅんこ)被告(62)が日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン容疑者(64)にフリースの上着とダウンのベストを送りました。郵送なので、本人に届いたかどうか不明でしたが、東京拘置所から一通の「書類」が届きました。まったく面識がない両者ですが、なぜフリースを送ったでしょうか。先日、籠池夫妻を取材する機会があり、聞いてみました。

夫妻は詐欺容疑で逮捕された昨年7月末から大阪拘置所で約300日勾留されました。異例の長期勾留でした。大阪拘置所で一冬を越したわけですが「冬の寒さはこたえた」と2人は口をそろえます。

冬の寒さをしのぐのに、重宝したのが差し入れてもらったユニクロのフリースでした。諄子被告は言います。「これまでユニクロのフリースは買ったことはなかった。着てみると温かくて、軽い。看守さん『これいったいなんていうんですか? 』と聞いたら『フリースですよ』。拘置所の冬の夜はとにかく寒い。フリースを着て、毛布を被って、その上に座布団を被って、手袋をはめて寝ていた」。

11月19日に金融商品取引法違反の疑いで逮捕されたゴーン前会長。逮捕のニュースを見て、夫妻はすぐに差し入れを送りました。

「ゴーンさんもたぶん寒いだろうと。罪については、私たちには分からない。ただ拘置所に入った者として、暖かいものを差し入れしたかった」

郵送だったため、本人に届いたかどうかは不明でした。夫妻のもとに東京拘置所から11月30日付で通知が届きました。差し入れたのはフリースとベストの2点でしたが、フリースを入れていた巾着袋が3点目としてカウントされていました。通知は、巾着袋にはひもがついていたため、規定によって差し入れはできないというもの。別紙には巾着袋の処分をどうするかの記載がありました。「拘置所に取りに来るか」「廃棄するか」「着払いで郵送するか」。諄子被告は「破棄してくださいに丸をして東京拘置所に返信しました」。

諄子被告は「通知を受け取ったとき、全部、差し入れができなかったんだなと思った」。差し入れできなかった巾着袋に関する「通知書」はフリースが本人のもとに届いている間接的な「証拠」です。

新著「許せないを許してみる 籠池のおかん『300日』本音獄中記」を出版した諄子被告は「とくに外国の方には差し入れがなくて、領事館と連絡を取り合っている人もいた。テッシュ1つにしても貸与のものばかりなので、一刻も早くフリースを送ってあげたいなと思った」と自らの経験から、前会長の窮状を案じたそうです。

17年7月末の逮捕から約10カ月にわたった勾留で諄子被告は「自分の精神を鍛えてもらった貴重な日々だった。みなさんに申し上げたいのは負けないでほしい。勝つことよりも負けないでほしい。いまの世の中は迷いやすい。失望したり、落ち込みやすい世の中です」と話します。

「私たちみたいな人間にも大阪の街を歩いていると『がんばれ』といろんな声をかけていただく。そういう声をどんどんかけてもらえる人生にしたい」。

ゴーン前会長は会社法違反(特別背任)の疑いで21日に再逮捕されました。

「拘置所は本当に寒い。ゴーンさんが着てはったらいいなと思う」と諄子被告が話すと、泰典被告は「必ず着てはると思うな」と笑顔を見せました。

夫妻に今年の漢字を聞いてみると、「奸(かん)」。

泰典被告は「奸計(かんけい)をめぐらせる。人をおとしいれるためのはかりごとの『謀略』よりもさらに上のレベルの言葉。国のトップに立つ人のよこしまな考えが、いまこの国に、はこびっている」と説明しました。

夫妻は森友学園への国有地売却を巡る取引に関して、安倍晋三首相の妻昭恵氏が大きく影響し、文書改ざんにも夫妻への忖度(そんたく)があったと主張しています。諄子被告は森友学園への国有地売却を巡る問題を念頭に「いまの政権はウソばっかり。子どもの教育にもよくないと思います」と斬り捨てました。

面識がない人への気遣いを見せる夫婦ですが、面識のある人への憤りは半端でありません。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)