「イエス、フォーリンラブ」のフレーズで大ブレークしたお笑いコンビ、フォーリンラブのバービー(36)。「性欲強いキャラ」「超ポジティブキャラ」としてバラエティー番組で活躍してきたが、最近はジェンダー論などを発信する姿や前向きな生き方に賛同する声も多い。7月に始まったTBSラジオ「週末ノオト」(土曜午後1時)では、さまざまな顔を持つ語り口が人気だ。そんなバービーの多面的な魅力に迫った。

★イメージ違う本に反響

ド派手な白と赤のトランプの絵柄であしらわれたワンピース姿で現れ、こちらが圧倒されていると「標準装備です」とさらり。ひと言で場の雰囲気を明るくし、インタビューがスタートした。

「ラジオは洗練されていてセンスがあっておしゃべり上手な人がやるイメージ。私なんかがやるイメージが全くなかった。うれしいんですけど、狙っていたわけではないというか、棚ぼたラッキーみたいな(笑い)」

約14年続いたフリーアナウンサー久米宏(76)の番組の後枠としてラジオが始まった。

「聞いてましたけど、こっちからすると聞いてねぇよですよ(笑い)。久米さんがやめるっていうのがすごいニュースになったのをみて、初めてことの重大さを…。いや聞いてましたけど。私の本心としてはそんな話聞いてねえよ、知らねーよっていう。うふふ」

4月にTBSラジオの月替わりでパーソナリティーを担当する番組「マンスリーチャンネル」を経験したことでラジオの奥深さを知った。

「テレビの世界とラジオの世界は全然違って、ラジオはリスナーさんとの距離が近い。すごくダイレクトに感じるし、言葉の重みも届く。情報を伝える部分ももちろんあると思うけど私の思いであったりとか考えとかも人の目を気にせずにしゃべれたらなっていうのはありますね」

番組ではバービーのお悩み相談のコーナーなどが人気だ。

「私は久米さんみたいに教えるっていうことは全くできないですけど、一緒に考えて欲しいなと思います。その時の社会の空気感にも敏感でいたいし、かつ、超私個人の問題点から見えた発言みたいなこともできたらすごくうれしいなぁっていうふうに思っています」

★ラジオで女性支持増

元々芸人志望ではなかったという。

「自分はものを書く仕事がしたかったので、(一般の企業に)就職する選択肢はなかったんです。養成所を探しているときに、ここ(ワタナベエンターテインメント)の放送作家のコースがあって。『作家』という文字につられて…」

放送作家がどういうものかよく分からず申し込みに行った。

「教務職員の方に芸人コースを勧められました。人前で話すとか一切嫌なタイプで、芸人ノリとか全くわからない女子大生だったんですけど『芸人やってから作家やる方がいい』って説得されて」

養成所在学中、同期と取り組んだコント集団での活動を通してお笑いの基礎を学んだ。卒業後はピン芸人として活動し、イモトアヤコ(34)ともコンビを組んだり、再びピンで活動したりしている中で、現相方のハジメ(36)と組むことになる。

「ドリームマッチみたいに相方をシャッフルして出るやつがあってハジメさんに誘われて1個ネタを作って出たんです」

★YESフォーリンラブ

少したってからハジメに居酒屋に呼び出されて正式にオファーされた。

「ハジメさんは1個上の先輩で、ヒエラルキーのトップにいるような、私が一番得意じゃないタイプの人間だったので…最初断りましたが、酔いも回って勢いで『1年だけ』という約束でコンビを結成しました」

結成からわずか7カ月。テレビ初出演の08年のレッドカーペットで「レッドカーペット賞」を獲得。

「ハジメさんに言われるがままに、手取り足取り教えてもらって。芸人をやるっていう覚悟も伴っていないフワフワした状態で出たみたいだったんで、何も準備できていなくて訳もわからず。最初の何年かはよく覚えていないですね」

一気にブレークしたが、3年ほどで旬の時期は終わったという。その頃に新たなキャラクターへの転換点があった。

「2010年あたりにテレビ番組の企画で20キロのダイエットをしました。それまで“デブ”でいじられることでやってきたので、その武器を捨てるというのは相当な覚悟がいりました。頑張らなきゃいけないなって」

これまでのキャラを捨てた後、「性欲強いキャラ」「露出多いキャラ」「美容好き」「超ポジティブ」などが定着していった。

「何か過激なことをしないと生きていけないみたいなのもあったと思います。でも自分から発信したわけではなく、番組などでいろいろなキャラクターを引き出していってくれたんです」

★夢だった「物書き」実現

バラエティー番組などで活躍していたが、「このままの芸風で続けていいのか」という思いもあった。昨年8月にライターの武田砂鉄氏がパーソナリティーを務めるTBSラジオ「Action」に出演し、再び転機が訪れた。

「あるテレビ番組で私の自宅の本棚が映ったところを砂鉄さんがスロー再生して、お堅い本がたくさんあったということで。それを見てツイートしてくれて、プチバズりしていてラジオに呼んでいただいたんです」

ラジオではジェンダー論や大学時代に専攻したチベット仏教、犯罪心理学などを赤裸々に語った。

「もともとスピリチュアル系とかジェンダー、自己啓発について興味がありましたが、芸人としてお堅い話をすべきではないというのもあったんです」

結果的には「デブを捨てるくらいの転機だった」と明かすほどの反響だった。

「砂鉄さんがレールを敷いてくださった。おしりを出していた下品な人が唐突にジェンダーのこととか言っても説得力はないですからね(笑い)。神様です。武田砂鉄さまさまです」

その後SNSなどでも女性を中心にファンが増え、夢だった文筆の仕事も舞い込んだ。

★anan連載やりたい

「いろんなことが無駄じゃない。性欲が強いキャラも無駄じゃなく、男女コンビでの活動も無駄じゃなく、文筆業をやってることも無駄じゃなく、ラジオのポジティブな人みたいなイメージも無駄じゃない」

芸人としてどのような方向を目指しているのか。

「人にちょっと朗らかな気持ちになってもらいたいっていうのが大前提にあります。その中で、こっちが元気なことで共感してもらって元気になってくれる人もいれば、言語化してそれに共感して元気が出る人もいる。バラエティーではふざけたいし、まじめなところではまじめな話をしたい。別々の方向かもしれないけど目的がかみ合って統合されてきているっていう感じがあります。(雑誌)『anan』の連載をやりたいという夢に今近づいていますね(笑い)」【佐藤成】

▼ライター武田砂鉄氏(37)

なんかこう、バービーさんが歩いている後ろについていけば、赤信号が全部青信号に切り替わるような、そういうパワーを感じます。自分が担当するラジオ番組にゲストとしてお越しくださって、そこで話した内容をきっかけにさまざまな仕事が増えたようで、バービーさんがあちこちで自分に感謝を示してくださっていて、ありがたい限りなんですが、これまで時間をかけて蓄えてきたものが一気に爆発する瞬間に立ち会えたのは、こちらこそ興奮でした。バービーさんが歩けば、そこに道が開ける、ってな状態がまだまだ続くはず。とても楽しみです。

◆バービー(本名・笹森花菜)

1984年(昭59)1月26日、北海道夕張郡栗山町生まれ。東洋大文学部インド哲学科卒。ワタナベコメディスクール2期生。07年、ハジメと「フォーリンラブ」を結成。08年にフジテレビ系「爆笑レッドカーペット」に出場し、「イエス、フォーリンラブ」のフレーズで一気にブレーク。現在、TBS系「ひるおび!」の火曜レギュラーを務め、フジテレビオンデマンド「バービー&村上佳菜子の編集長私、イイ女になりたいの。」にも出演。特技はテニス、チベット体操。159センチ。血液型O。

◆「週末ノオト」

TBSのラジオ番組。自宅で楽しめる本や映画、料理などの過ごし方、地元の名店、ドライブスポット、イベントなど、本当に心を動かすモノコトを、さまざまなプレゼンターがバービーとリスナーにプレゼンテーション。バービーのお悩み相談コーナーなども人気。

(2020年8月16日本紙掲載)