舞台を見に行く時、「この俳優が出ているなら、大丈夫だろう」と思う、指針になる俳優が何人かいる。その1人が立石涼子さんだった。

立石さんは文学座研究所を経て、1976年から演劇集団円に所属し、いろいろな舞台に出ていた。96年には文化庁の海外研修生として1年間、ロンドンに演劇留学をした。その時、立石さんは45歳と中堅だったけれど、新人のような気持ちで、英国演劇の新しい息吹を吸収した。

04年にはアイルランドの劇作家の舞台「ビューティークィーン・オブ・リーナン」などの演技で紀伊国屋演劇賞個人賞を受賞した。世界的な演出家の故蜷川幸雄さんにも確かな演技力を買われ、蜷川演出作品の「欲望という名の電車」「三人姉妹」などに出演した。そのほか、蜷川さんは、二宮和也主演「シブヤから遠く離れて」、松本潤主演「白夜の女騎士」でも起用したが、そこには舞台に不慣れな若手をしっかりと支える脇役としての立石さんへの信頼感があった。

そのほか、仲間由紀恵が故森光子さんから継承した「放浪記」、三浦春馬が英国人演出家とタッグを組んだ「罪と罰」にも出演した。三浦ラスコーリニコフに殺される老女役だったが、殺されるまでの悪態ぶりは、ラスコーリニコフの殺人に十分な説得力を持たせる迫真の演技だった。これが最後の舞台になった。

小泉今日子は「会うたびにいつもうれしかった。可愛くて優しいお姉さんでした」としのんだ。多くの演劇仲間に愛された女性だった。