ヴィクトリアマイルは牝馬限定戦だけに荒れる要素も多い。水島晴之「G1の鍵 その一瞬」は、古馬になって「成長&変化」が顕著に表れたサブライムアンセム(牝4、藤原英)に注目。前走の阪神牝馬S2着は課題の折り合いに進境を見せて最内を鋭く伸びた。成長力でどこまでG1馬に迫れるか。大駆けの可能性を探った。

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阪神牝馬Sのサブライムアンセムは、心身の成長を感じさせる内容だった。もともと前進気勢の強いタイプでコントロールが難しい馬だが、逃げたウインシャーロットの後ろで折り合いに専念。前半3ハロンは36秒1と遅く、最初は頭を上げて行きたがる面もあったが、なだめられると収まりがついた。このあたりが「心」の成長だろう。

鞍上とのコンタクトがしっかり取れて、脚をためることに成功。直線に向いた時は「どこを抜けるか」と進路を探すほど手応えには余裕があった。ただ、前を走るサウンドビバーチェが内、外へふらつき、間を割れなかったのは痛い。それでもゴールでは4着ウインシャーロットをかわし、外から追い込んだ3着コスタボニータを首差退けた。

阪神牝馬Sで2着に食い込んだサブライムアンセム(右)。左は1着のサウンドビバーチェ
阪神牝馬Sで2着に食い込んだサブライムアンセム(右)。左は1着のサウンドビバーチェ

前が詰まりながら、坂を上がってひと伸びできたのは「体」の成長。桜花賞9着後の休養で、秋のスワンSでは10キロ増の488キロで出走。その後も大きく減らすことなく、ここ2戦は492キロで安定している。3歳時から馬体の良さは目立っていたが、さらにつくべきところに筋肉がついてパワーアップ。走りは一段とダイナミックになった。

心身の成長によって、レースぶりにも「変化」が出ている。以前は折り合い面を気にしてか後ろからしまいを生かす競馬が多かったが、暮れのターコイズSでは5、6番手を進み、直線は進路が狭くなりながらミスニューヨークの0秒2差まで迫った。前走も先行策からしっかり脚を使っている。流れに乗って競馬ができるようになったのは収穫だ。

G1は桜花賞以来2度目になるが、当時もスターズオンアースとは0秒2差の接戦でナミュールには先着している。あれから1年。出遅れなどで成績にムラはあるが、確実に「成長」しレースぶりも変わった。東京の長い直線なら一発の魅力がある。

■3歳秋以降の「成長」とレースぶりの「変化」

【ここが鍵】

牝馬は消長が激しいと言われる。牡馬より気性がきつく、体調管理が難しい。この時季は発情期にもあたり、能力通りの結果にならないこともしばしば。ヴィクトリアMも荒れるG1として有名で、昨年1番人気レイパパレが12着に沈み、一昨年2着に10番人気ランブリングアレーが入り、高配当になった。実績ばかりに頼らず、3歳秋以降の「成長」とレースぶりの「変化」を感じ取ることが必要だ。6、7歳で連覇(15、16年)したストレイトガールのように短距離馬のイメージを払拭して、マイル女王になったケースもある。今年スターズオンアース、ソダシは強いが、2頭に割って入る伏兵候補も多士済々だ。

■ナミュール たくましさ増

ナミュールも右肩上がりの成長曲線を描いている。3歳時は小柄で薄い印象もあったが、ひと夏越して馬体重はオークス時の426キロから440キロ台後半へ。たくましさを増して以前の「切れ」だけではなく「パワー」も兼ね備えた。それを証明したのが前走の東京新聞杯だ。スタートからポジションを取りにいき、5番手をキープ。同馬の前半3ハロン35秒0(推定)は、これまでより1~1・5秒も速い。好位から差してウインカーネリアンの頭差2着は、大きな「成長」ととらえたい。

ナミュール(2022年11月9日撮影)
ナミュール(2022年11月9日撮影)

■アンドヴァラナウト 上がり最速脚

アンドヴァラナウトの阪神牝馬Sは、スタートから行きっぷりが悪かった。スローペースの4角11番手では厳しいと思ったが、直線は狭いスペースをこじ開けて伸びてきた。上がり33秒6はメンバー最速。思い描いた通りの競馬ではなかったが、これまでにないレース運びで脚が使えたのは大きい。昨秋の府中牝馬Sでもラチ沿いを伸びてイズジョーノキセキ、ソダシと頭+3/4馬身差の3着に善戦しており力は足りる。脚をためて直線に懸ければ上位争いも可能だ。

アンドヴァラナウト(2022年11月8日撮影)
アンドヴァラナウト(2022年11月8日撮影)