2年前の10月、イランと1-1で引き分けた親善試合を覚えている方も多いと思う。その時、練習で使ったのが、今回のイラク戦のスタジアムだ。10月だったにもかかわらずとにかく暑く、空気が薄くて、乾いていた。選手と一緒に走ったが、すぐに口がカラカラになり、息を吸えば空気の熱気で喉が熱くなる。ちょっと走っただけで息が上がってしまった(年齢のせいではない)。そのくらいサッカーには適していない気候だった。

 12年9月には、U-16(16歳以下)アジア選手権でテヘランに2週間滞在した。宗教上の理由で外出する時は、なるべくハーフパンツは避け、長いジャージーを着るようにと言われ、日中の40度近い気温の中、散歩したことがある。ここでも歩くだけで息苦しさを感じた。

 サッカーの世界で結果を出すためには、3つの条件が影響する。(1)自分たちの技術、戦術、メンタル、コンディションなど自分たちの力で何かできるもの。(2)相手がどう戦ってくるかなど相手次第のもの。そして第3の要素がある。(3)気候、時差、ピッチ状況、標高などの試合環境、レフェリーの判定、そして運だ。これらは、自分たちの力ではどうすることもできない。もちろん最大限の準備をするが、これらが自分たちにプラスに働くか、マイナスになるかで、試合結果が左右されることもある。

 14年W杯ブラジル大会出場を決めた試合。6月の埼玉。6万人の大観衆。天気も良く気温は少し高かったが、湿度は高くない。レフェリーはバーレーン人。後半37分にオーストラリアのなんでもないクロスがそのままゴールへ。でもこの時、このまま負けるという感覚が全くなかったのを覚えている。真冬から来たオーストラリアの選手は足が止まっているし、第3の要素は日本にプラスに働いていると感じていたからだ。あとは運だ。この時間にクロスが直接入ってしまうなんて、運だけは相手か、と思った44分。圭佑(本田)のクロスが相手DFの手に当たる。レフェリーもすぐに反応してくれPKの判定。この時点で運もこっちについたと思った。日本中のプレッシャーを受けても平然と真ん中に蹴った圭佑はさすがだが、いくつもの要素が日本に傾いた瞬間だった。

 イラク戦は、すべが相手に傾いていた。日本が日本らしく戦う環境ではなかった。でも言い訳はできない。予選は内容ではない。結果だ。あくまでも勝利を目指して戦ったが、2人もけが人が、それも守備の選手に出るなんて想像できなかった。ミスもあり、消耗し、相手の勢いもあり、レフェリーの判定も大迫に背中を向けた。あの22番のDF(レビン)が前半に1枚イエローカードを受けてなかったら、もしかしたらレフェリーはちゅうちょなく笛を吹いていたかもしれない。ここも運かもしれない。

 勝ち点3を狙いながら、絶対にその勝ち点を0にしてはいけない難しい采配だった。交代で何かを変えるより、けが人の補充になってしまった。それでも勝ち点を1取った。苦しい、しんどい、思うようにいかない試合でも最低限の結果を確保することが大事だ。この勝ち点1のおかげで次の試合に勝てば自力で出場権が取れる。もしイラクに負けていたら、ホームでは決められない。

 絶対にオーストラリアに勝てる。心の底から信じて、きちんと準備をすることで第3の要素が日本にほほ笑む。大観衆の埼玉で、みんなのパワーを送ってほしい。

(霜田正浩=ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボールの真実」)