親が子を思う気持ちは、子がいくつになっても変わらない。

 4年連続得点王を狙う川崎FのFW大久保嘉人(33)の母千里さんは、Jリーグが開幕した2月27日の朝早くに、家を出た。小倉の自宅から車で10分ほど。向かった先は、地元では妙見神社と呼ばれる足立山妙見宮(福岡県北九州市)。足の不自由だったという和気清麻呂が宝亀元年(770年)に創始し、その地に沸く温泉で足の傷を治したことから、足の神様としても有名だ。そこで、千里さんは手を合わせて祈った。

 「今年も嘉人がケガをすることなく1年間、活躍できますように。得点王になれますように」

 自宅に戻るとご飯を炊いて、13年5月12日に他界した大久保の父克博さん(享年61)の仏壇に供えた。

 「今年もまた(シーズンが)始まりますね。試合のある日はいつも、妙見神社に朝から行って、お参りをするんですよ。もう(今年)6月で34歳になりますから。ケガをしてしまったら、満足な活躍ができなくなる。ケガだけはしてほしくないから」

 開幕戦は昨季王者の広島だった。小倉から広島までは、新幹線で1時間。遠い距離ではなかったが、会場には行かなかった。

 「もし負けたら、帰りの道のりが本当につらい。家で静かにテレビで見ることにします」

 電話の向こう側で、千里さんはそう言った。

 2月の沖縄合宿を取材で訪れたが、川崎Fの仕上がりは決していいようには見えなかった。同11日のJ2水戸との練習試合は3-3の引き分け。それでも開幕までに立て直し、王者広島を1-0で下して幸先いいスタートを切った。大久保にゴールはなかったが、テレビ観戦した母は、ホッとひと安心したに違いない。


 ◆益子浩一(ましこ・こういち)1975年(昭50)4月18日、茨城県日立市生まれ。00年大阪本社入社。プロ野球阪神担当を経て、大久保がC大阪に在籍した04年からサッカー担当。W杯は10年南アフリカ、14年ブラジル大会を取材。