西野ジャパンのロシアでの成功の鍵を握るボランチのレギュラー争いが始まった。

 日本代表は25日、東京近郊で合宿5日目の練習を行った。ピッチの四方をネットで囲んでいるが、そのネット際をファンが覆い尽くし、日本代表の人気の高さを物語っていた。

 そのファンが、この日の練習で一番盛り上がったのがボランチ陣のシュートシーンだった。長谷部はこの日チームに合流したため別メニューとなり、長谷部をのぞく山口蛍(27)、井手口陽介(21)、三竿健斗(22)、遠藤航(25)、柴崎岳(25)、大島僚太(25)の6人が約30分、ボランチにしては珍しいミドルシュートの練習をみっちり行った。西野監督もこの時だけは、ボランチの動きをじっと観察。西野ジャパンのボランチ競争が事実上スタートしたことを印象づけた。

 センターラインに3バックを想定してDFの昌子、槙野、植田が並び、ボックス付近から手倉森コーチがロングボールを入れる。ボランチ6人の中から一人ずつ出て、DFのクリアボールを受ける。その後は、ボランチ→DFライン→ボックス付近の攻撃陣→ボランチと、いずれもワンタッチでボールが渡り、最後はボランチが1トラップか、ダイレクトでシュートする流れだった。

 敵のクリアを3バックが処理し、ボランチがいかに攻守の切り換えを素早くして、ゴール前まで迫るか。その切り換えの速さと、ボランチのシュート力が試される狙いがあった。ここで、6選手の力量とコンディションに大きな差が出た。山口、大島、井手口がシュートの正確性で好調さを感じさせた。

 中でも、山口は弾んだボールを意識的に浮かさないようにコントロールしつつ、コーナーを的確に選んでシュートしていた。大島はトラップからシュートまでのタイミングを微妙に変化を加えながら、シュートも確実に枠内に収めていた。井手口は、ボールを収めてからシュートまでのリズムが非常に短く、コンパクトな足の振り。実戦不足が心配されていたが、コンディションは昇り調子であることを感じさせた。

 井手口は「ボランチのシュート練習は新鮮でした。気をつけていたのはトラップ。内容はまあ普通です。シュートのフィーリングはそんなに良くはないです」と、表情を変えずに冷静な口調だった。

 西野監督がボランチの役割として、DFからのクリアを素早く収め、攻撃につなげることを主眼にしていることを感じさせたが、代表選手のシュートとしては物足りない部分も多くあった。

 まず、シュート直前のパスを足元にピタッともらいながら、トラップが1メートル以上と大きくなり、さらに大きなモーションでシュートする場面があった。ただし、実戦ではそういう場面はほぼない。いかにトラップからシュートまでのタイミングを詰めるか、もしくはシュートブロックに入ったDFの股を冷静に抜くかが、得点への分岐点となる。フリーの状態で、かつ自分のペースでシュートを打つ練習内容には、実戦を想定したプレッシャーが足りないと言えた。

 また、トラップした足でシュートする場面も多かった。例えば、右足でトラップした瞬間に、コースを替えて左足に持ち替え、しかその一連の流れをクイックにスムーズにコントロールしていた大島や山口には技術と工夫が見えたが、そうした意識が高い選手と、そこまで余裕がない選手との差も感じさせた。

 トラップについても、緩急を入れてトラップするか、トラップすると見せ掛けてダイレクトで打つかなど、コーチや監督が多くの課題をもっと要求しないと、ただ好天の芝生で気持ちよくシュートするだけの練習になってしまう。

 海外の強豪チームはいずれもボランチのシュート力が一級品。ワールドカップ(W杯)最終予選のオーストラリア戦終盤で井手口が見せたミドルのように、両チームの足が止まった時に、いかにリズムを狂わせ、正確にゴールを狙えるボランチがいるかで、日本代表のコロンビア戦での期待値は変わってくる。

 試合中に、ボックス付近で、フリーで気持ち良くシュートを打ち抜ける場面は、1試合に多くて1度あるかないか。それを深く認識して練習をしないと、本番で巡ってきたビッグチャンスで唇を噛むことになる。西野ジャパンの得点源は、もしかするとこのボランチの厳しい競争の中で磨かれるかもしれない。【井上真】