全日本高校女子サッカー選手権で06年以来9大会ぶり2度目の優勝を飾った藤枝順心の多々良和之監督(51)は、穏やかな表情で選手たちが喜ぶ姿を見つめた。「ほっとしました。(現地入りした元日から)10日間、長かったです」。選手たちに誘われて集合写真の列に加わると、うれしそうに笑顔を見せた。

 3大会連続で4強入りし、強豪校に定着した。監督が理想に掲げるバルセロナ(スペイン)のようなパスサッカーが浸透し、女子サッカー界では「藤枝順心=パスサッカー」のイメージが広がっている。全国からパスサッカーにあこがれる少女が集まり始め、さらに選手層は厚くなった。

 パスサッカーを支えているのは、豊富な運動量だ。選手が恐れている「ペース走」が、全体の体力を底上げしている。週に1回、10分間、自分の限界のスピードでグラウンドの周囲を走り続ける。各自1分ごとの距離が細かく設定されており、終了後には全員が倒れ込む。「3年間、ペース走を中心に生活していた」と話す選手もいるほどだ。今年はさらに、短い距離をダッシュする本数も増やした。多々良監督は「走れなければ、やりたいサッカーはできない」と説明する。

 自主性を重んじる方針で、練習中も個人の時間をつくる。戸田雪子校長は「監督が生徒に声を荒らげているのは見たことがない。粘り強く接して、個々の能力に合わせた指導をしている」と明かす。普段は移動のバスの運転手は、常に監督が務める。優勝を決めた後、スタジアムを出る際にも監督がハンドルを握っていた。【保坂恭子】