選手や観客が「今のはゴールだろ!」なんて気色ばむことが激減するかもしれない。日本サッカー協会は22日のJ3の一部試合から、初めて追加副審を配置する。追加副審はゴールライン後方から、ゴールの判定やペナルティーエリア内の反則などに目を凝らす。主審の死角を補い、際どい場面の判定の質が向上することが期待されている。

 今月上旬、横浜市内のグラウンドで行われた追加副審の研修会は熱気にあふれていた。J1、J2の主審を担当する約40人が、不慣れな動きに戸惑いながら熱心に取り組んだ。14年W杯ブラジル大会の開幕戦ブラジル-クロアチアを裁いた西村雄一主審は「選手と重なったり、どうしても見えない部分があるが、追加副審は違う角度から補える。間違いない判定が下せる」と自信たっぷりに話した。

 追加副審の導入で、ゴールやペナルティーエリア内での反則などの判定の正確性はグッと増すはずだ。仮に主審が反則を見逃した場合、ゴールライン後方に位置する追加副審は「ペナルティー」などと無線で主審に伝える。ゴールか、ノーゴールか主審の判断が難しい場合は、追加副審が先に判断する役割を担う。

 導入の背景には昨季の“誤審”騒動がある。3月8日の清水-鹿島戦では鹿島FW金崎のシュートを清水DFが手で防いだように見えたが、主審の笛は鳴らなかった。6月7日の川崎F-湘南戦では湘南MF菊池のシュートがクロスバーに当たって落ち、ボールはゴール内に入ったかに思われたがノーゴール。Jリーグなどには改善を求める声が多数寄せられたという。

 追加副審の導入で副産物も期待される。西村主審は「副審がゴールライン上にいないのにゴールインの判定をしていた。その重圧から解放され、オフサイド判定に集中できる」と、オフサイドの判定がしやすくなるとみる。日本協会の上川徹審判委員会副委員長は「選手も反則をやりづらくなる。サッカーがクリーンになる」と、選手のファウルが減ると予想する。

 22日のJ3のG大阪U23-相模原戦を皮切りに、今季はJ1年間王者を決めるチャンピオンシップなどでも導入される。小川佳実審判委員長は「ゴールラインテクノロジーやビデオ判定も含め、どのシステムが一番いいのか検証する」と言う。追加副審は人員確保の問題もあって、来季以降どうするかは決まっていない。【上田悠太】

 ◆欧州での追加副審 08年にU-19欧州選手権の予選で初めて試され、その後、09-10年シーズン欧州リーグで1次リーグ全144試合、さらに決勝トーナメントでも試験的に導入された。12年7月の国際サッカー評議会(IFAB)での決定により、ゴールラインテクノロジーが採用されるのと同時に、追加副審制度も正式採用された。以降、UEFA(欧州連盟)主催の欧州CLや欧州選手権などで継続的に導入されている。

<追加副審とは>

 ◆任務 主審が試合をコントロールするのを援助する。主審の要請や指示により、フィールドや用具の点検など試合運営にかかわる事柄について援助する。

 ◆試合中の位置 ポジションはゴールライン後方の約11メートルの間に位置する。特別な場合を除きフィールドには入れない。

 ◆ゴールキック時 ボールがゴールエリア内にあるかチェック。正しく置かれていない場合は主審に知らせる。

 ◆ペナルティーキック時 ゴールラインとゴールエリアの交点に位置。

 ◆PK戦時 ゴールの左右のゴールラインとゴールエリアの各交点に位置。ゴールポストの間とクロスバーの下で、ボールの全体がゴールラインを越えたかどうか、主審に合図する。