サッカー元日本代表で、1月26日に現役を引退した元FC東京、ベガルタ仙台のFW平山相太氏(32)の引退セレモニーを取材した。

 3日に東京・味の素スタジアムで行われた東京-仙台戦後の引退セレモニーを通して、平山氏の目に涙はなかった。その理由を直接聞こうと、待ち構えたミックスゾーンでの第一声は「うぉっ…(記者の)人数、多いな。最後の囲み取材ですね。ありがたいです」だった。「最後」という悲しい言葉を、決して重くならない形で口にしつつ、さりげなく記者に感謝する。「らしいな…」と思った。

 高校、大学サッカー担当として“国立男”“怪物”と呼ばれた若き日の平山氏を取材した。国見高時代は、190センチと大きな体とは似つかわしくないくらい声が小さく、囲み取材の際には、かなり接近しないと声が聞き取りにくかった。ただ、自分が話したいこと、伝えたい率直な思いを1つ、1つ、言葉を選びながら一生懸命話してくれているのは感じた。そして、取材が終わると、いつも「お疲れさまでした」「ありがとうございました」などと記者に一言、残してその場を後にした。

 年代別日本代表合宿を取材するために練習場に向かったある日、長崎から駆け付けたばかりからか、入り口が分からず、まごついている平山少年を見かけ、声をかけたことがある。頭2つ以上も大きい学生服姿の高校生に「平山君、入り口はこっちだよ」と声をかけると、消え入りそうな小さな声で「ありがとうございます」と言い、頭を下げて走っていった姿を今でも覚えている。

 引退セレモニーで涙を流さなかった理由を聞くと「泣くかな…というのもありましたけど全然、泣かずに。緊張し過ぎた。ちゃんと話さなきゃと思った」と笑みを浮かべた。引退スピーチの冒頭で「2度と味の素スタジアムのピッチに立つことはないと思っていました」と語った真意を聞くと「引退して、Jリーグのピッチに立てると思わなかった。本当に恐縮…恥ずかしさもあったんですけど、2度と立てないと思ったところに話をいただいたので、やらせてもらった。最後に自分が家族だと思っていた場所に立てたので、とてもうれしかった」と口にした。素直な言葉の1つ1つは、学生時代のままだった。

 平山氏は仙台大体育学科へ進学し、指導者と解説者を目指す。スカパー!で7日に生中継される、ルヴァン杯仙台対アルビレックス新潟戦が解説者としてのデビュー戦となる。囲み取材では、その件について自ら語り出し「話すのも下手なんで、サッカー、話すこと…1つずつ勉強していかなければならない。優しく、お手柔らかにしてください」と報道陣に向かって笑みを浮かべた。そして「(囲み取材を受けるのは)最後っすね…ありがとうございました。頑張って下さい」と報道陣に呼び掛けた。

 頑張らなければいけないのは、人生の新たな第1歩を踏み出す自分のはずなのに…そんな反応なのか、平山氏がミックスゾーンを後にする際、一部から笑いが漏れた。ただ、記者は頭を丸刈りにした国見高時代の「平山君」だった頃と少しも変わらず、自らの引退セレモニーを取材してくれた取材陣に感謝した、平山氏の気遣いがうれしかった。

 目標とする指導者として、国見高時代の恩師の小嶺忠敏・現長崎総合科学大付高監督(72)を挙げ「サッカーだけじゃなく人としてのあり方を高校3年間で学び、卒業してプロ生活でも少しずつ成長できた。そこを教えられる人になりたい」と抱負を語った。記者への変わらぬ気遣いがあれば、きっと彼は選手思いの指導者になってくれるはず…。そう期待しつつ、まずは7日の解説者デビュー戦に成功して欲しいと思う、自分がいた。【村上幸将】