ヴィッセル神戸の新監督に24日、スポーツダイレクターだった三浦淳寛氏(46)の就任が決まった。取締役も兼務していた強化の最高責任者が、現場のトップに転身する異例の人事。これまで監督経験のなかった三浦氏の相当な覚悟を感じる。

今年元日に天皇杯で優勝した神戸は、クラブ悲願の初タイトルを獲得した。その際、三浦氏に将来的な監督就任の意欲の有無を聞いたことがあった。

「なくはないです。将来的に指導者になろうと、S級ライセンス(Jリーグの監督就任に必要な条件)を取ったし、気持ちがないことはない。ただ今は、そんなことを考えている余裕も時間もないんです」

現役時代は耳にピアスをつけるなど、現代風に言えば“チャラい”イメージの選手だった。愛称は「アツ」。ただ、そのアツは「熱い男」の意味だと、勝手に思っている。

Jリーグで最初に所属した横浜フリューゲルスが、98年度限りで事実上のチーム解散が決まった時は、練習後に近所の駅前に立ち、チーム存続の署名活動を行っていた。本人から「ひょっとしたら解散の話が覆るのではないかと、ただただ信じていた」と聞いたことがある。当時24歳。その最後の天皇杯で優勝し、号泣したのは有名な話だ。

横浜F時代、スペイン人でバルセロナ出身のカルロス・レシャック監督の下でプレーできたことも、自身の財産になったと聞いた。3-4-3システムの左MFで、むだな動きをするのではなく「ボールに汗をかかせろ(球を動かせという意味)」と指導され続けた。その経験が今、神戸で生かされている。

18年2月の神戸のSD就任時に「バルセロナを目指す」と掲げた際、「いろんなところで鼻で笑われもした。でも気にしないようにした」と我慢したという。その成果は天皇杯優勝になって表れた。フィンク監督を支えた三浦氏のマネジメント力も大きかった。

本人が最初から望んだわけではない今回の監督就任だが、助けを求められれば断ることができない性格でもある。熱い男の新たなステージに期待したい。【横田和幸】