陸上男子100メートルで日本人初の9秒台を出した桐生祥秀(24=日本生命)が21日、現役アスリートでは初めて国立競技場に足を踏み入れた。

契約するアシックスが行った国立競技場の完成記念イベントでトラックを疾走。陸上の「聖地」を作りたいと思い続けている男は、国立競技場の雰囲気を脳裏に焼き付け、7ケ月後の五輪本番のイメージを膨らませた。

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国立競技場のトラックを駆け抜けた。赤く傷のない新しいタータン(走路)。その少し硬めの感触。7カ月後には、ここが五輪の舞台となる。この日は寒空だったが、桐生は、真夏の国立競技場で戦う自分の未来像を思い描いた。

桐生 初めて入った。これから本番がある。イメージというか、雰囲気を感じられた。入れてよかった。

イベントとはいえ、“初レース”も経験した。人気ユーチューバーグループのフィッシャーズと200メートル走で対決。6秒のハンディなど無いに等しく、直線に入る前には抜き去った。最後は流しながら、バックしながら、ジャンプしてゴール。抽選で選ばれた2020人に、トップアスリートの力を見せつけた。

聖地-。かねて胸に秘める思いがある。「今から陸上の聖地を作っていきたい」。高校野球では甲子園、高校ラグビーでは花園など聖地と言われる地がある。しかし今、陸上には、そう呼ばれる場所が存在しない。五輪で活躍し、陸上に対するムーブメントを巻き起こせれば、国立競技場を「聖地」にできるかもしれない。「中、高校生も国立に出たいという思いがあれば、レベルも上がってくると思う」と未来へつなぐ思いもある。17年9月に「10秒の壁」を壊し、日本スプリント界は新時代へ突入した。再び、歴史を動かし、この日、踏み入れた場所を「聖地」に変えてみせる。

五輪で果たすべき到達点は明確だ。100メートルは日本人88年ぶりの決勝進出、400メートルリレーは金メダル。五輪の思い出を問われると、16年リオ五輪の400メートルリレー銀メダルだけでなく「個人で準決勝にいけなかったこと」を付け加えた。その悔しさは忘れず、練習に励む。国立競技場で残る思い出は、歓喜のものしか残さない。【上田悠太】

○…国立のファーストランイベントには、桐生や土屋太鳳の他にも多彩なゲストが登場した。女子マラソン金メダルの野口みずきさんや2大会連続メダルの有森裕子さん、レスリング女子で3大会連続金の吉田沙保里さん、東京五輪のメダルを目指すスケートボード・パーク女子の中村貴咲らが登場。吉田さんは「新しい競技場で走れて、すごく楽しかった」と話していた。

○…女優の土屋太鳳(24)もゲストとして登場した。国立競技場の印象について「高速道路。新記録が出るんじゃないかなという雰囲気ある」と笑顔。東京五輪は「いろんな国の人が、それぞれ応援をしている姿で、東京を歩くのが楽しみ」と心待ちにした。

◆桐生の東京五輪出場への道 来年6月に開催される日本選手権で100メートル3位以内に入れば、出場は確実になる。すでに参加標準記録10秒12は突破済み。100メートルの代表に入れば、400メートルリレー代表入りも同時に決定する。