「就活ジャンプ」で道を切りひらく-。ノルディックスキー・ジャンプ男子のW杯(ワールドカップ)代表出発メンバーに初々しい顔を見つけた。今夏、急成長した中村直幹(22=東海大)だ。

過去にピンポイントでのW杯出場は7戦あるが、フル代表としてW杯代表入りするのは初。今季初戦だった18日のW杯ビスワ大会(ポーランド)では44位。最高の滑り出しとはいかなかったが、今季は22年北京五輪に向け、さらに自身のジャンプ人生を占う意味でも大切なシーズンとなる。

14日の欧州遠征出発前。「すごく楽しみ。海外の試合は伸び伸びできるし、緊張しない。海外での試合の方が好きですね」と胸を躍らせていた。ただ、それとは裏腹に厳しい現実を前に、胸には切実な思いを抱えている。

大学4年生を迎えた。17年の冬季ユニバーシアード大会では個人、団体で2冠を果たすなど、ベテランに頼りがちなジャンプ界にあって待望してきた若手の成長株だが、いまだ就職先のメドは立っていない。

夏は自ら企業に売り込んだり、講演を行うなどしてアピールに努めたが、手ごたえはなかった。就職活動をしたくとも今後は遠征メンバーに選ばれ、活動もままならない。成長し、強くなってメンバーに選出されたことが、就職活動の足かせになっているとしたら…、冬季スポーツの未来は不安としか言いようがない。

さらに学生ゆえ活動費もままならず身銭を削っての生活を強いられている。強化指定選手だが、3つのランクの一番下で遠征費はほぼ自身の負担。夏場までに工面したお金ももう底をついた。「このままではニートですね。親に頼る訳にはいかないので、結果を出してアピールするしかないです」と冗談交じりに話すが、目は笑えてはいなかった。

冬季競技は4年に1度の五輪で脚光を浴びてもその後は注目が薄れていく。スキーチームを持つ企業も少なく、期待の若手とはいえ、競技を続けていく環境が十分整っているとは言えない。素質のある選手が志半ばで引退していく姿は何度もみてきた。

ただ手をこまねいているばかりではない。現在インターネットの専用サイトを通じ競技資金を集める「クラウドファンディング」で30万円に金額を設定し、援助を呼びかけている。

「30万円に設定したのは目標額にいかないと資金がもらえない仕組みなので、ぎりぎり次の遠征が行ける金額に設定しました。海外で経験を積んでというのは当たり前で、今は目先が大事。22年北京五輪に向けて立ち止まってはいられません。活動資金がないので賞金を稼がないといけない。今季のW杯で3勝が目標。世界に就活ジャンプをしてきます」とたくましい。

スキージャンプは日本ではまだマイナー競技と言わざる負えないが、欧州では大会に数万人が集まる人気スポーツだ。海外のトップ選手は「空飛ぶ広告塔」として数千万円ほど稼ぐ選手もいる。世界に売り込みたい企業などがあったら、厳しい現実に直面するジャンプ選手への支援をきっかけに世界にPRしてみてはいかがだろう。企業の皆さん、一考を!【松末守司】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆松末守司(まつすえ・しゅうじ)1973年(昭48)7月31日、東京生まれ。06年10月に北海道本社に入社後、夏は競馬、冬はスポーツ全般を担当。冬季五輪は、10年バンクーバー大会、14年ソチ大会、今年3月の平昌大会と3度取材。