「谷本2世」が異例の海外武者修行に出る。柔道女子63キロ級で今夏の世界選手権銅メダルの田代未来(21=コマツ)が15日、フランスとスロベニアでの約2週間の単身合宿のため、成田空港から出発した。目的は、ただの強化ではない。指導する五輪2連覇の谷本歩実コーチは「相手を知って、怖さをなくすることです」と説明。16年リオデジャネイロ五輪での頂点を目指し、ライバルが育った環境を知ることにあった。

 きっかけは世界選手権だった。前年覇者アグベニュー(フランス)に準々決勝で敗退。「相手が大きく見えた。怖さがあった」。その様子に同コーチが決断した。「相手を知らないことが恐怖を生んでいる」。すぐに動いた。フランスに加え、15年大会を制したトレステニャクの故郷スロベニアへの修行計画を立てた。

 同コーチ自身が、メダルを争ったライバルのデコス(フランス)と大親友だった。相手をよく知るからこそ、余計な不安を消し、思い切った勝負が挑めた。敵ではなく好敵手。「友人として『好き』ということが、勝負には大事」。そう経験談を語る。

 同じ63キロ級で金メダルを目指す田代も、その意図を理解している。フランスからスロベニアへはバスで17時間かかる。「相手のことをもっと知りたいし、タフさも身に付けたい」。大胆な「敵情視察」が、来年ブラジルでの栄光につながると信じる。【阿部健吾】

 ◆田代未来(たしろ・みく)1994年(平6)4月7日、東京都生まれ。小学校2年で柔道を始める。相模原市立相原中3年の時に世界カデでオール一本の優勝、東京・淑徳高1年では世界ジュニアも制した。2年時の負傷で国内の高校主要タイトルはなし。13年にコマツ入り。14、15年世界選手権銅メダル。所属と階級が同じ、容姿も似ていることから谷本歩実2世と言われる。163センチ。

 ◆クラリス・アグベニュー 1992年10月25日、フランス・レンヌ生まれ。13、14年欧州選手権、14年世界選手権優勝など。圧倒的なパワーを武器に大外刈り、内股などを得意とする。164センチ。