真央にはトリプルアクセルがある。女子SPで浅田真央(26=中京大)は今季ワーストの60・32点で、今大会自己ワーストの8位と出遅れた。8カ月ぶりに解禁したトリプルアクセル(3回転半)は1回転半となって失敗。その影響もあって得点は伸びなかったが、自身は挑戦したことを評価した。今日25日のフリーでも代名詞のジャンプをプログラムに組み込み、巻き返しを狙う。

 浅田が滑りながら前を向き、スピードを上げる。左足で氷を蹴った瞬間、そのジャンプはゆるんだ。祈るように見つめていた観客からため息がもれた。1回転半しか回れなかった。それでも浅田の心は折れない。後半にかけむしろ勢いは増す。ポニーテールを振り乱し、手足を大きく伸ばして、ステップを踊りきった。

 8カ月ぶりのトリプルアクセルは失敗。今季ワーストの得点でも「アクセルのない状態でショート終えてみた時の気持ちよりも、挑戦しようと思って臨めたことはよかった」。今大会で浅田しか跳べない8・50点の武器。成功すれば上位に食い込んでいた。失敗の悔しさより、信念を貫いたすがすがしさが上まわった。

 今季3戦は左膝の故障を守るため、SP、フリーともに大技を回避していた。「自分の最高の演技ではない」。挑戦できない自分にいら立ちがつのった。GP(グランプリ)シリーズ自己ワーストの9位に終わり、涙を流したフランス杯後。浅田は自ら1週間の休暇を取った。シーズン中にそれだけ休むのは異例だった。それまで「心が折れかけて」と言うが、練習に戻ると自然と体が前に動いた。全日本選手権でトリプルアクセルを入れるため、精力的に練習に取り組んだ。

 佐藤信夫コーチは、世界選手権などこの先の試合の話をこの1カ月、一切しなかったと明かした。「彼女のやる気を優先した」。失敗のリスクがあっても、トリプルアクセルをやらせて、浅田の気持ちが前に向くことが今やるべきことだった。この1カ月、きれいに跳べたことはほとんどなかったが、大阪に入って急に調子が上向いた。「来る前からやろう」と思っていたが、23日の公式練習で今季初めて美しく決め、心は決まった。

 休養をはさんで出場11大会連続の表彰台、10度連続の世界選手権出場は厳しい状況だが「自分の演技が出し切れたら。ファンの中に恩返しできる演技がしたい」と言葉は力強い。なぜ全日本でトリプルアクセルを跳びたいのかは自分でも「分からない」。それでもフリーで「入れたい」。トリプルアクセルという武器が、浅田の背中を押す。【高場泉穂】

 ◆2回転半以上必須 女子SPのジャンプは2回転半以上が必須要素のため、それ以下の場合は0点になる。