選手時代に京都・伏見工(現京都工学院)の草創期を支え、本年度で定年を迎える奈良朱雀(すざく)の山本清悟(しんご)監督(60)が、初戦突破にも厳しい言葉を投げかけた。前半で26-0と圧倒しながら、後半は自らボールを手放すミスが続出。試合後には集合した選手へ、熱い思いをぶつけた。

「怒りを通り越して、笑いしか出てこんわ。キック蹴ったら、そのまんま。誰もチェイスせん。こんなんやったら、どうせ(次戦で)惨めな負け方するわ」

京都随一の繁華街「祇園」にあった弥栄(やさか)中(現開睛中)在学時、やんちゃだった山本監督は周囲から「弥栄の清悟」と呼ばれた。1976年(昭51)に伏見工へ入学。山口良治監督(77=現京都工学院総監督)に口説かれてラグビー部に入部すると、わずか1年で高校日本代表に選ばれた。卒業後の伏見工花園初優勝へと続く物語は、テレビドラマ「スクール☆ウォーズ」に描かれた。

山口監督からは「お前は悪いヤツの気持ちが分かる。そういうヤツを救ってやれ。教師を目指すんやぞ」と背中を押され、日体大卒業後に教師の道へ。今月3日に節目の60歳を迎えた。

定年前最後の花園予選。試合を終えた部員へ思いを伝えた後、山本監督は競技場の外で「特に感慨深い思いはなかったけど、昨日、ジャージーを渡す時に自然と涙がこみあげてきた」とつぶやいた。来春から再雇用で指導を続ける意向を持っているが、現時点ではっきりと決まっていない。

11月1日の準決勝は花園優勝経験を持つ天理とぶつかる。1月の近畿大会予選で0-115と大敗した相手だ。山本監督は「今日が最終目標であれば『お疲れさん』と言えばええ。でも、そうじゃない。天理の高い壁に挑戦していくのが目標。このままじゃ、どうにもならん」と言い切った。

着替えを終えた選手は気持ちを整理し、冷静に試合を振り返った。CTB稲田鎮主将(3年)は「自分たちも(後半に)気が緩んだ自覚があった。天理戦にこの雰囲気を持っていかないために、先生の活が入った。気を引き締めてやりたい。(山本監督が)来年どうなるか分からない。自分たちが勝って、決勝に連れて行って、花園に出るのが目標です」。心を1つにし、古豪の白い壁に立ち向かう。【松本航】