離脱者続出で窮地の日本(世界ランク10位)に光が差し込んだ。過去1分け9敗のフランス(同2位)に23-42で完敗。初勝利は逃したが、前日1日に急きょ先発が決まったSO李承信(り・すんしん、21=神戸)ら有望株が躍動した。

新型コロナウイルス陽性で4人の主力を欠きながら、前半は13-13と健闘した。新戦力が貴重な経験を積み、第2戦(9日、東京・国立競技場)で歴史的勝利を狙う。

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桜のジャージーの10番を背負い、李が約37メートル先のポールを見つめた。開始早々7点を追う前半6分。2万4000人超えの観衆が静まる中、堂々とPGを決めきった。「狙えると思ったから(仲間に)言った。思い切り蹴れたのは良かった」。前週のウルグアイ戦が代表初キャップ。同14分にNO8タタフのトライで逆転し、自らは前半だけで2PG1ゴールとけん引した。

知らせは突然だった。1日の朝、当初先発予定だったSO山沢が抗原検査でコロナ陽性。ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)に「楽しんでくれ」と控えから先発へ昇格を告げられ、「驚きは正直あった」と明かす。大阪朝鮮高から帝京大に進み、1年時に経験した国際大会で海外留学を志して中退した。コロナ禍で留学はかなわず、縁あって当時トップリーグの神戸製鋼(現神戸)入り。今季のリーグワンで台頭し、代表2試合目のフル出場で6本中5本のキックを成功させた。

日本の置かれた状況は厳しい。NO8姫野、FB松島ら主力を故障で欠き、後半は防御が崩れた。4トライを献上し、今春に欧州6カ国対抗を全勝で制した強豪との差は否めない。その中で躍動した李は、ジョセフHCに「日本の10番でティア1(世界の強豪10チーム)のフランスと戦う。落ち着いてタックルを決め、指示を出し、挑戦する。今後の可能性がある」と評価され、相手のガルティエ監督にも「10番は攻撃をうまく動かし、キックが非常に正確だった」と印象づけた。

司令塔だけでなく、初キャップのプロップ森川らが途中出場したFWはスクラムで健闘。経験豊富なプロップ稲垣は「気分的には最悪です」とテストマッチでの敗戦の重みを受け止めつつ、「誰が入ってもプランを遂行する能力はある」と言い切った。23年W杯フランス大会まで、残すは約1年2カ月。李は「勝つために10番としての役割を全うしたい」と誓い、1週後の第2戦に向かう。【松本航】