【第87回】
大人が「いい性」を見せる
性教育
「まず大人の性教育から始めよう」−婦人科や泌尿器科の医療現場など、最前線で若者の性をめぐる問題に直面している専門家たちが、地域の保健所や学校などで若者や親に向けて性教育を行う試みが、各地でスタートしている。
思春期の子どもたちは、身体の急激な変化、性的な欲望、性感染症など、性をめぐるさまざまな悩みを人知れず抱えて生きている。子どもたちに「性に関する正確で具体的な情報」を提供する教育の機会が絶対的に不足しているためだ。その一方で、彼らはインターネットなどから得られる玉石混交の不確かな性情報に振り回されている。この背景には、親や教師など大人側に、性に関する十分な科学的知識が不足していること、性を語る経験やノウハウの不足によるためらいがある。
日本家族計画協会(東京・新宿区)では来年3月、厚生労働省の委託を受け、親への性教育を含む「親子コミュニケーション・スキルアップセミナー」を開く予定だ。同協会代表で産婦人科医の北村邦夫医師は「思春期に家庭内で親子の会話が多いと、命の大切さや自分の存在を肯定する気持ちが育ち、性交の開始にも慎重になると考えられます」と日ごろの親子のコミュニケーションが、結果的に初交年齢を遅らせることを指摘する。
「子どもたちから性について尋ねられたときには、はぐらかせたり、拒否せず、正確な情報を伝えてあげてください」と話す北村医師は、大人の課題として次の4つを挙げる。∧1∨厳しさとともに愛情のある家庭をつくり、親子の交流を大切にする∧2∨性についてある程度の知識を持ち、子どもとの対話を楽しむ∧3∨学校や地域で発達段階に応じた科学的、具体的な性教育を行う∧4∨本人が自分を大切にし、自分で考えて人生に取り組めるよう導く。
「子どもたちは大人の後ろ姿を見て育ちます。彼らが日常的に影響を受ける家庭、学校、社会で、大人たちが命の尊さを示していくことが大切です。性は生きる活力です。親や教師は『いい性』を生きている姿を見せていきたいものです」。
【ジャーナリスト 月崎時央】
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