【慧眼】傘寿にしてまだまだ健在 ミクロのアピールプレーに敏感な「ダンプ」辻恭彦氏

阪神、大洋で捕手として活躍した辻恭彦氏(80)から突然、電話をもらった米谷輝昭記者。「センバツの試合、見てました?」。第95回選抜高校野球の大分商-作新学院戦の話題でした。大分商が9回1死一、二塁と攻める最中、唐突に試合が終わりました。野口球審は、走者の二塁空過があり「守備側のアピールによるアウト」と説明しました。終わろうとした試合を続行させ、アピールを待って終了とした幕切れに、辻氏が疑問をぶつけてきました。

プロ野球

◆辻恭彦(つじ・やすひこ)1942年(昭17)6月18日、愛知県生まれ。享栄商―西濃運輸を経て62年阪神入団。頑丈な体つきから「ダンプ辻」と呼ばれる。全盛時の江夏と相性がよく、68年9月17日巨人戦でのシーズン記録354奪三振、73年8月30日中日戦での延長11回ノーヒットノーランなどでバッテリーを組んだ。75年大洋移籍。84年引退。捕手で実働22年は、ヤクルト八重樫、中日谷繁23年に次ぎセ3位。通算974試合で418安打、44本塁打、163打点、2割9厘。現役時は171センチ、83キロ。右投げ右打ち。

二塁を踏まずに一塁帰塁…アウト宣告

試合終了後にマイクを握った野口球審は、まず二塁審判の判定を謝罪した。9回2死からのアウトコールがそれだ。

大分商の6番打者が左飛に倒れた後、走者はそれぞれ元の塁に戻った。二塁走者は二塁へ。二塁を回っていた一塁走者は一直線に帰塁した。

二塁を踏んでいない。

ボールは左翼から遊撃→三塁とわたって、タッチも触塁もなかった。なのに、二塁審判は一塁走者にアウトを告げた。

走者は逆走しなければならないとき、進塁とは逆の順に、再度塁を踏むことが求められる。

電話の辻氏が話した。「塁を空過した走者をアウトにするには(守備側が)アピールをしないと。アピールがないのに、審判がアウトにしたのはおかしいでしょ」。このケースは、アピールプレーであると強調した。

作新は整列 審判は協議…二塁に触球しアウト宣告

一塁走者アウトなら、ここで試合は終了する。作新学院は整列に向かい、審判は集合して協議を始めた。

約30秒後、両チームをグラウンドに戻し、2死一、二塁から再開させた。遊撃手が投手からボールを受け、二塁に触球する。二塁審判は改めて一塁走者にアウトを宣告した。8-6。作新学院が2点差で逃げ切り、試合は終わった。

野口球審の場内アナウンスはこうだった。

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徳島・吉野川市出身。1974年入社。
プロ野球、アマチュア野球と幅広く取材を続けてきた。シーズンオフには、だじゃれを駆使しながら意外なデータやエピソードを紹介する連載「ヨネちゃんのおシャレ野球学」を執筆。
春夏甲子園ではコラム「ヨネタニーズ・ファイル」を担当した。